多種族の町にて2


 久しぶりに冒険者ギルドへやってきた。

 相変わらずどこのギルド内も賑やかで、雰囲気は酒を飲んだくれている者や冒険者同士の会議で騒がしいが、やはり伯爵領よりも種族が多様なため今までとは違ったおもむきがある。


 カウンターにいる受付嬢だってヒト族ではなく狼の獣人族だ。


「冒険者ギルドへようこそ、何か御用がありましたら私にお申し付けください。君たちはたぶん、冒険者への依頼をしにきたのかな?」


 相変わらず子供の容姿のせいでギルド職員に勘違いをされるが、この辺はもう慣れっこだ。

 俺の事を冒険者だと知らない、初見のギルド職員はだいたいこんな感じの反応をする。


「いえ、冒険者登録をしに来ました。俺は既にギルド証を持っているのですが、こっちの獣人の子がまだギルドに登録していないので、その登録をさせてください」

「あら、まぁ……。いえ、分かりました。それでは登録の手続きをさせて頂きますね」


 職員の受付嬢は一瞬驚いたようだが、紅葉を見るとやけにあっさりと頷いた。

 あれ、おかしいな。

 俺の時は冒険者という職業を甘く見てはいけないとか、危険だからやめておけとか色々言われたんだけども……。


 俺と紅葉で対応が違う理由を知りたい。

 聞いてみようかな。


「止めないんですか? ああいえ、別に止められても困りますけど」

「止める必要が無いと判断したからですね。ヒト族の受付ならば見た目で騙されてそういった判断をしたかもしれませんが、獣人である私にはその御方が天種である事が分かりますから。畏れ多くも天種である御方に私如きが口を出す資格はありません」


 天種ってなんだ?

 いや、そもそも紅葉は日本の妖怪なので、確実に天種ではないんだけど。

 しかしまるで彼女は紅葉の事を種族として上位の存在であるかのように振る舞っている。


 確かに人間種にはそれぞれ上位種である、ヒト族・英雄、ハイ・エルフ、ハイ・ドワーフ、天獣人などなどが存在するが、紅葉は当然そのどれにも当てはまりそうにない。


 まあ天種だと言っているから天獣人という認識で話しているのは分かるが、どこをどうとってそういう判断になったのだろうか。

 

「のう、おのこよ。儂、天種とかいう種族だったのかえ? 姉様あねさま達と同じで妖怪だと思ってたんじゃけど」

「いや、たぶんあの受付嬢さんの勘違いだろう」

「なんじゃ、勘違いか」


 世間知らずの紅葉が受付嬢の判断を真に捉え混乱しかけるが、心配しなくてもお前は妖怪だから。

 まあ九尾は土地神らしいので、最終進化まで到達したら妖怪というカテゴリーではなくなるかもしれないけどね。


 しかし俺達のコソコソ話が耳の良い獣人種には丸聞こえだったのか、即座に受付嬢さんが否定してきた。


「何を馬鹿な事をおっしゃいますか天種様。ようかい、というのが何の種族かは存じませんが、あなた様は我ら獣人族の希望、英雄の血族でございます。兄上であろうお連れの御方には獣人の血が引き継がれていないようですが、もう少しご自分の立場を認識して頂けなければ困ります」

「えっ!? で、でも儂……、え? んー、あれ?」


 受付嬢の剣幕に圧倒され、違うとは思いつつも再び困惑するビビリ妖怪。

 しっかりしろよ紅葉、お前そもそもこの世界の生き物じゃないだろ。

 まずそこから思い出して欲しいところだ。


「いいですか天種様。二尾であるあなた様は英雄の血族であると同時に、王の資格を持つ血族でもあるのです。ここは亜人に理解がある国なので、あなた様に害を成す者など存在しないし、存在しても我ら獣人族が命を賭して守るかもしれませんが、本来なら既に獣人族の首都で保護されしかるべき教育を施されているハズなのですよ?」


 マシンガントークで迫る受付嬢の顔は真剣で、獣人の未来を憂いて必死に説得しているような印象を受ける。

 というか紅葉が天種と判断されたのは尻尾が増えたのが原因だったのか。


 確かに天獣人には種族によっては二尾だったり、はたまた本来の種とは違う毛色を持っていたりと特徴は様々だったが、アプリで狐の天種を見た事がある訳じゃないし、そもそも俺がキャラクターメイキングしている間に時代が中世まで進んでいたので知らなかった。


「それに天種様のお兄様であるあなたもあなたです。ご家族からは妹君いもうとぎみが天種であると教わらなかったのですか? 確かに天種様が冒険者ギルドに登録して頂ける事は光栄ですし、その実力もあるでしょう。ですが、その、護衛も連れずにというのはあまりに無警戒過ぎます」

「は、はぁ……。そうですか」


 彼女の答弁はさらなる熱を以て加速していくが、そろそろ周りの冒険者がざわつき始めたので登録だけさっさとしてもらいたい。

 周りの冒険者からは「あれが天獣人か」とか、「なぜ天種様がここに……」とか色々おかしなことになりつつある。


「のうのう、その辺にしてやって欲しいのじゃ。このおのこは儂の大事な連れ故、あまり責めないで頂きたい」

「む、これは失礼致しました天種様……。それでは手続きの方を進めさせていただきます。ちなみにお兄様は既にギルド証をお持ちのようですが、ランクはおいくつでしょうか。差し出がましく申し訳ありませんが、もしお二人だけでチームを結成するのであれば、いくら天種様のお兄様といえど実力を見ない事にはこの御方をお任せする訳には……」


 自分が口出しするべきではないと認識しているようで、その表情からもかなり申し訳なさそうな感じを滲ませている。

 だがいくらこの世界で天種という存在が獣人にとって重要であったとしても、俺からしてみればそんな命令を受け入れるつもりはない。


 というか筋違いだ。

 天種だかなんだか知らんが、そもそも紅葉は天種じゃなくて妖怪だし、赤の他人である受付嬢にとやかく言われるなんて以ての外である。


 とはいえ獣人には獣人の価値観があり、それを創造したのは俺だ。

 であるならば多少の価値観の相違は受け入れてしかるべきであり、紅葉を見知らぬ誰かに譲る気もないが、その実力というやつを証明しろというのなら証明してみせるつもりである。


 ぶっちゃけてしまえば、今の力で腕試しもしてみたい。

 リプレイモードで戦闘は行えるが、現地で俺の力がどの程度の評価を受けるのかは分からないしね。

 その話、乗ってやろうじゃないか。


「冒険者ランクはCです。これで不満があるようなら、その実力というやつを証明してみてもいいですよ。模擬戦でもしますか?」

「え、Cランクっ!? あ、い、いえ、……何でもございません。しかしCランクといっても、そのランク帯までは各支部のギルド長の判断次第で無条件に与える事のできるランクです。お兄様に実際その実力が備わっているかの確認をさせて頂けませんか?」

「ええ、構わないですよ」


 確かにこのランクは依頼を積み重ねたというより、野良の回復魔法使いの立場を危ぶんだウィルソン・ガルハート元伯爵が与えた階級だ。

 彼女の言葉は何も間違っていないだろう。


 だが俺は知っている。

 ミゼットと共に何度もギルドに足を運び、様々な中級冒険者を見て来た俺からすれば、既に聖騎士の力はCランクなどでは収まらないという事を。


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