多種族の町にて1
一尾に創造神の加護が付与されたミスリルの短剣を装備させ、その後もついでとばかりに作った革製の軽鎧などを装備させた。
皮は旅を続けている間に狩りをして溜めておいた魔物素材が役に立ち、川に潜んでいた魔物であるワニの魔物なんかを素材としている。
そしてそんな装備を作り続けている間ずっと下級の魔物達と戯れていた一尾はというと……。
「で、お前なんか尻尾増えてない?」
「む? ……うむ、増えておるなぁ。何故じゃ?」
「いや、俺に聞かれても……」
一尾はいつの間にか二尾になり、その茶色の狐の尻尾が二つに増えていたのだった。
確かに良く食べて、よく寝て、よく遊んでいたが、いくらなんでも成長スピード早すぎでは?
期待した情報が得られるかは分からないが、鑑定を掛けてみるか。
【二尾の妖狐:紅葉】
姿を隠す幻術が得意。
逃げ足が速く、騎獣に変化する事も可能。
二尾になった事で、戦闘能力の増加に加えさらに狐火が扱えるようになった。
※※※の加護により急成長中、潜在能力は亜神に匹敵する。
よく食べ、よく寝て、よく遊べばいずれ九尾の大妖怪への道が開けるだろう。
若干弱い。
な、なんだと……。
この急成長の原因は全て俺の創造神グッズが原因だと言うのか……。
いや、まあ二尾もとい
よって職業の代わりに進化するための経験値ボーナスを得るという、加護内容の辻褄は合っているのだけどね。
「一尾、……じゃなくて紅葉」
「んぁー?」
「お前なんか、尻尾が増えたから狐火が使えるようになったらしいぞ」
「本当かえ?」
「本当らしい」
あまり新能力に興味が無さそうな紅葉だが、まあせっかく使えるようになったならやってみるか、という感じで狐火を使用する。
すると紅葉の周りにはボッボッボッという音と共に青白い火の玉がいくつも現れた。
見た目はおどろおどろしい感じがして不気味だが、距離を離していてもかなりの温度を感じるので、たぶん攻撃力は高いのだろう。
「使えたー」
「そうか、良かったな」
「うむ。なかなか肉料理を作るときに便利かもしれない」
だが紅葉にとっては狐火などガスコンロの火のような感覚でしかないらしく、戦闘で使うという発想ではなくバーベキューに使えるという発想になったようだ。
相変わらず能天気だなこいつ。
せっかく姉である二尾と同じ力を有したというのに、色々思考回路が残念すぎる。
とはいえ、戦いや争いに興味が無いのは最初から分かっていた事ではあるけど。
「ま、これで少しは自己防衛が出来るようになったな。そろそろまた旅を再開するか」
「そうじゃなぁ。あの角の生えたウサギ共とじゃれ合うのも楽しかったが、やっぱり儂は
「そうか。じゃ、そうしよう」
この世界では人間に狐の耳が生えていても獣人として見られるだけなので、妖怪である紅葉が物凄く自然に社会へ溶け込める。
以前その事をこいつに話したら人間社会にとても関心を持っていたので、きっと自分が
今まで人間に追われていた経緯を考えると少し可哀そうだし、この世界の温かい人間文化にも触れさせてあげたいのでさっそく町を目指すことにした。
いったん創造神の神殿を退室し、徒歩で町を目指す。
既に国境を越えて来ていたために町はそう遠くない所にあり、国境付近の町として栄えている地はすぐ傍にあった。
「よし、次の者。身分証はあるか? 無いのであれば銀貨1枚の税が必要になるが」
「俺の分はこれで。こっちの獣人の子はこれから身分を登録するので、銀貨で対応します」
「……ほぉ、その歳で既にCランク冒険者なのか。凄いなボウズ」
「ええ、まあ。そのギルドカードを得るまでには色々苦労しましたよ」
町の門兵は10歳の俺が中級冒険者だという事に関心し、苦労したと話すとそうだろうそうだろうと訳知り顔で頷いた。
まあこの門兵が思っているような冒険をして中級の資格を手に入れた訳じゃないんだけどね。
苦労したというのは主に、そのギルドカードを手に入れるために貴族の嫡男を治療したり、暴走幼女のお世話をしたりとそういった方面で苦労しただけだ。
「うむ、通ってよし! それと、獣人の子の身分証の登録を忘れるなよ? ボウズの大事な家族なんだろ?」
「そうですね、お気遣いありがとうございます。それじゃ」
「達者でな門兵よ、それじゃあのぅー」
「おう! またな」
俺と紅葉は門を通してくれた門兵に手を振って別れを告げる。
しかし家族か。
あの門兵は紅葉の事を俺の血縁か何かだと思っていたようだが、たぶんそれは日本人特有の顔立ちのせいだろう。
一部を除いて、この世界の人間種には西洋風の顔立ちの人種が多い。
よって日本人顔である俺や、日本の妖怪である紅葉の顔立ちは彼らとは少しだけ雰囲気が違うのだ。
珍しいタイプの顔立ちだから、彼も兄妹かなにかだと思ってしまったのだろう。
しかしこの国の町はガルハート伯爵領とは違い、様々な種族が多種多様に入り混じっているな。
別に向こうも種族間での差別とかは目立つほど無かったが、それでも人口の多くをヒト族が占めており、それ以外の種族は極端に少なかった。
それがどうしたことか、伯爵領から遠く離れたこの国の町ではヒト族に次いで多い獣人を筆頭に、エルフやドワーフ、ごく少数だが竜人や翼人などが普通に闊歩している。
もちろんヒト族は最も多く見かけるが、それでもその比率が明らかに違う。
ところ変われば文化も変わるものなんだなぁ。
ちなみに竜人というのは竜の因子を持った人間種の事で、別に竜族ではない。
エルフなんかと一緒にマナを消費して創造した、普通の人間種族だ。
まあアプリの世界地図で確認すると、本人達はよく竜を信仰対象としてあがめて居たりするので、たぶん他の種族とは違うというプライドを持っていてもおかしくはないけどね。
とはいえそれはこの世界の住人視点であり、創造神であるプレイヤー視点から見たら色々違う真実が見えている、というだけである。
そして翼人だが、これまた背中に鳥の翼を持った人間種というだけだ。
翼には色々な種類があるので、何がどうなってその因子が組み込まれたのかは創造神である俺にも把握できていないが、とりあえず彼らは空を飛べる。
明らかに体重と翼の比率が飛行するのに釣り合っていないので、空を飛ぶ時は種族特有の魔法を駆使しているのだという事が窺える。
実際に【生命進化】の種族説明にも似たような事が解説されていたので、たぶん正解だ。
そんな多種多様な人間種が存在する町へと辿り着いた俺は、さっそく紅葉の冒険者登録をするためにギルドへと向かった。
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