創造神の神殿2



 迫りくるワイバーンの噛みつきを避け、圧倒的な膂力を持つ尻尾の攻撃を腕をクロスさせてガードする。

 俺はそのまま『リプレイモード』が作り上げた結界の壁にぶち当たり、一瞬肺から空気が持っていかれるが、なんとかワイバーンの追撃を躱すために光弾を連射し、牽制と同時に魔力強奪で魔力を補給する。


「てやんでぇ! お前なんかに負けてられるかぁ!」

「頑張るのじゃぞおにぎりのおのこ!! 奴はもう飛ぶ力も無い、もう一息じゃ!」

「おうよ!」


 いくら結界内では死なないとはいえ、体中がボロボロになり意識が飛びかけた事でもう聖剣を維持する体力も残り僅かだ。

 しかしそれは相手も同じ事。

 龍でも竜でもないたかがワイバーンにここまで追い詰められているのはかなり悔しいが、それでも最初に成す術なく頭を喰われた時にくらべたら、大きな進歩だ。


 自信を持て、俺ならやれる。

 俺は最後の一撃に全てを懸けるべく、聖剣に限界ギリギリまで魔力を与えた。


 そして迫りくるワイバーンの牙と俺の聖剣が正面からぶつかり合い、火花を散らせる。

 これがもし牙ではなく鱗を纏った体表ならば貫通していただろうが、残念ながらワイバーンの中で最も硬度の高い牙は一撃では貫けない。


 しかし、徐々に聖剣の攻撃力が相手を押して行っている。


「つ、ら、ぬ、けぇぇえええええ!」

「GYAOOOOOOON!」


 そして最後の最後と言わんばかりに、限界ギリギリではなく限界まで魔力を吸わせた聖剣を押し込む。

 するとついに耐久度の限界を迎えたワイバーンの牙がバキリという音と共に圧し折れ、聖剣は奴の頭をそのまま貫いて行った。


 命を散らしたワイバーンのリプレイはそのまま光の粉となって消えていき、結界が解除される。

 当然、俺の体力も元に戻った。


「っしゃぁああああ! 苦節6回目のチャレンジにして勝利! ざまぁ見やがれワイバーン!」

「ぬわぁー! やっとやっつけた! おめでとうなのじゃぁ!」


 一尾と俺は嬉しさのあまり駆け寄りハイタッチをする。

 そう、なにを隠そうこのワイバーン戦は既に6回目のリプレイ戦なのだ。


 1回目はワイバーンの尻尾の毒で殺され。

 2回目はワイバーンの体当たりで首を圧し折られ。

 3回目はワイバーンに噛み千切られと、散々な目に合った。


 だが何度もチャレンジしているうちに徐々にレベルが上がり、さらに相手の行動パターンを理解することでなんとか6戦目にして勝利をもぎ取ったという訳である。


 余談だが、リプレイ戦での経験値の上昇速度は物凄く遅い。

 ただ命を懸けずに何度も強敵と戦えるので、普通に狩りをするよりは効率は良いようだ。

 魂魄使いのレベルもたった6戦で2つもあがり、既にレベル6になっている。

 ちなみにレベル6で新たなスキル、『魔力譲渡』を覚えたらしい。


 相変わらず使い道が限られている、微妙なスキルだ。

 ほんとに魂魄使いは不遇だな……。


「さすが儂の認めたおのこは根性があるのー。儂があんな化け物に襲われたら2秒で降参するわい。例え死なないと分かっていてもじゃ」


 まあそうだろうな。

 こう言っては何だが、一尾に根性はない。

 というか実際に一尾の力を把握するためワイバーン戦に放り込んでみたのだが、本当に2秒で俺に泣きついてきた。


 可哀そうなのですぐにリプレイを解除したけどね……。


 とはいえそれでは一尾の力が分からなかったので、試しに過去のミゼットや黒子お嬢さんのリプレイと戦闘をさせたところ、なんと辛勝ながらも僅差で打ち勝っていた。

 どうやらトラウマとなった陰陽師が相手でも自分が死なないならということで、積年の恨みを晴らすつもりで頑張ったらしい。

 本人がそう言ってた。


「しかしこの部屋は奇怪じゃのー。幻のクセに実体のある敵は存在するし、死にそうになってても戦いが終わればすぐに回復するし。いったいどうなってるんじゃ?」

「それは俺にも良く分からん」

おのこの力なのにかえ?」


 と、言われましても。


 ま、それはともかくとして先ずは休憩だ。

 肉体的には疲労していないが、さすがに精神的に疲れた。

 次はデスクワークになりそうなクリエーションモードか、もしくは一尾の戦闘力の底上げのために弱い敵を召喚して鍛えよう。


 ……そうだなぁ、一尾が怯えずに倒せそうな敵といったらホーンラビットの群れくらいか。

 戦闘経験を積む事で妖怪が職業を取得できるかの実験にもなるし、もし職業を取得できなくともビビリを克服するための自信になるだろう。

 さっそく試してみよう。


「さて、次は一尾の番だな」

「んぁ?」

「んぁ、ではない。お前も俺と一緒に旅をするのであれば、少しくらいは鍛えてもらわないと危険がいつまでも付き纏うからな。死にたくなければ多少は訓練をしておいた方がいいぞ」

「ぬ、ぬぅ……。仕方あるまい、死ぬのは嫌じゃし」


 まさか自分が戦う事になると分かっていなかった一尾だったが、この先では危険が付き纏うという情報を得ると嫌々ながらも承諾した。

 まあ一尾の性格からして戦いは好きそうではないのが分かってはいたが、こればかりは本当に仕方がない。


 ミゼットの時とは違って、一尾には匿ってくれる身分の親もいないし。

 もし俺が途中で戦闘不能になったら、せめてしばらくの間逃げ隠れするだけの実力は欲しい所だ。


「まあそう心配しなくても、相手はちゃんと力量に合った敵にするから大丈夫だよ」

「そうかえ? それならいいのじゃが」


 それに加え、俺はこれからクリエーションモードで一尾の装備を作ろうと思っている。

 一体何が創造できるのかは知らないけど、異世界初日から鍛えている錬金術師も既にけっこうなレベルだ。

 錬金術師のレベルだけとってもCランク冒険者として恥ずかしくないくらいには高いので、色々作れるものはあるだろう。


 という訳で、俺はリプレイモードでウサギの群れを召喚し、一尾を放り込んでモノ創りに没頭することにした。

 さぁて、何を作ろうかな。


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