魔族2



 強力な闇属性を持つ魔族と魔物に対し、神官スキルである光弾を打ち込み続ける。

 さすがに格上の力を持つ魔族にはそうそう当たる攻撃ではなかったようだが、動きの遅い魔物に対しては大ダメージを与えたようで、相手のボディそのものである鎧を蜂の巣にして沈黙させた。


 ……ざっとこんなものかな。

 どうやら冒険者達は全員逃げ切ったみたいだ。


「ふぅー。とりあえずミッションクリア」

「ぐ、き、貴様ぁ……、一体何者だ。その力、子供の鍛錬でどうにかなるレベルを超越しているぞ」

「ああ、この惑星の魔族から見てもそう見えるのか。うーん、意外だ」


 てっきりちょっと強い子供くらいのつもりでいたが、やはり職業補正3倍はチートだったらしい。

 まあ、そりゃ2ヶ月レベル上げしただけで騎士と互角だもんな、そりゃそうか。

 さすが創造神の分身なだけはあるらしい。


 ちなみに現在、俺は魔族に攻撃するのをやめてその辺でぶらぶらしている。

 魔族は俺の動きに裏があるのかと訝しみ、まるで抵抗の意志も見せず、かといって諦めた様子もない俺に対し次の行動を取りあぐねているようだ。


 そんな警戒しなくても、ただブラブラしてるだけなんだけどね。

 スタンピード解決の情報源となる冒険者と、必ず守らなければならなかったミゼットを逃がした以上、俺はもうどのタイミングで戦闘不能になっても良いので対応は気楽なものだ。


 そもそもこの魔族がなぜスタンピードを起そうとしたのかは知らないが、ぶっちゃけてしまえば俺からすればそんな事はどうでもいいのである。

 俺は別に魔族が憎いと思った事も無いし、明確な敵だと考えたこともない。


 こちらの認識としては、アプリで創造した惑星に生れ落ちた規定外の種族、というだけである。

 別に無理に絶滅させようとかは思わない。

 ただせっかく創った世界をめちゃくちゃにされては困るので、龍神に見張っておいてもらっている、というだけだ。


 だがこうしていてもしばらくは魔族側からアクションを起こさなさそうだったので、暇になった俺は質問をしてみた。


「で、どうしてスタンピードを起そうとしたんだ? やっぱり魔神絡みかな?」

「な、なに!」

「確か魔大陸は龍神が見張っていたはずだけど、そもそもよくこの大陸まで龍神や原始龍、またはその眷属たちの目を掻い潜ってこれたよね。……意外と優秀だったりするのかな?」

「貴様、……なぜその事を知っている」


 いや、でもやっぱり優秀ってことは有り得ないか。

 だってワイバーンが相手ですら今の俺では確実に狩れるとは言い切れないのだ。


 ワイバーンとは種族的に格の違う竜族と、そのさらに上にある竜族最高峰の高位古代竜ハイ・エンシェントドラゴン、そして創造神の加護を受けた竜よりもさらに上位の存在である原始龍、最後にそれらを含め全ての龍と竜の上位種、最強の龍神が見張っているんだぞ。


 こんな吹けば飛ぶようなレベルの俺に苦戦している魔族が、龍神やその眷属の目を掻い潜って大陸を渡って来たという説は、正直言って無理があるだろう。

 だとすると、こいつは魔大陸出身ではない、ということになる。


「んー、考えれるのは元々ただのエルフだった奴が、なんらかの儀式か、もしくはより高位の魔族に瘴気をあてられ魔族化したってところか」

「なっ!? 貴様、どこまで事情を知っている! 馬鹿な、ありえない!!」

「お、当たった? どっちが正解?」


 動揺する元エルフの魔族は頭を掻きむしり、顔を真っ赤にして驚愕する。

 なんか薬をキメたヤバイ人みたいだ、近寄らんとこ……。

 ついでに、せっかくだから脱出を試みる。


「待て、逃げるな! 貴様だけは放置しておく訳にはいかん!」

「嫌だね! そんな薬をキメたヤバイ表情の奴に近寄られたくないからな! 光弾、光弾、光弾!!」


 光弾を牽制にして動きを阻害し、追って来る魔族を余所に俺は洞窟からの脱出を始めた。

 今の手札でまともに戦っては勝ち目がないので、あわよくばこいつを町まで連れて行き、そのころには冒険者達からの情報が行きわたり討伐隊が組まれいるだろう地点で、この魔族を討ち取る。


 こいつに恨みはないが、どっちにしろスタンピードによって犠牲者を多く出そうとし、町を混乱させた以上は討伐されることになるだろう。

 もはや早いか遅いかだけの違いのように思える。


 もちろんこの魔族が今から死ぬ気で逃げおおせるというのであれば、また話は違ってくるだろう。

 しかしここまで計画し、そして俺という存在を逃がそうとしないこの魔族にはもう未来が無い。

 追いかける、という選択をした時点で詰みなのである。


「くっ、小癪なぁ……」

「うぉ、どこから出してるんだその怨嗟の声は」


 憎悪に満ちた凄まじい殺気を飛ばし、とても元人間種のものとは思えない恐ろしい声で追いかけてくる。

 しかもさすがに格上の魔族というだけあって、光弾を避けまくりながらも何やら魔法を編んでいるようだった。


 確か得意分野は闇魔法と召喚魔法だったはずだが、咄嗟にデュラハンもどきを召喚した手腕を見るに、メインで鍛えてるのはたぶん召喚魔法かな。

 だったらこの魔法も召喚魔法と認識しておいた方が良さそうだ。


「出でよ冥府の番犬ケルベロス、出でよ冥府の守護者腐敗竜、我が意に応え召喚に応じよ……」

「げっ!」


 魔法を編み終えた魔族は自らの片腕を引きちぎり、それを依り代として召喚魔法を発動させた。

 引きちぎられた腕は魔法によって二分割にされ、片方は三つ首の犬のような姿に、もう片方は骨が丸見えの腐ったドラゴンのような姿を模していく。


 どうやら俺をここで始末するために切り札を出したようだ。


 というか、普通そこまでするか?

 見つかったなら一旦逃げて再起を図ればいいじゃん。

 まあ、創造神として知っている情報から考えたあの推測が、そんなに彼にとって都合の悪い物だったという事なのだろう。

 あの血走った眼をみれば、相当オツムに来ている事が窺える。


「この二匹は我が命と瘴気を依り代として召喚した疑似生命だ! 瘴気が尽きるかお前を殺すまでは死ぬことがない! ……お前はここで諦め、そして我らの為に死ね【勇者】ァアア!」

「勇者じゃないよ!?」


 逃げようとする俺を追い、大きな代償と引き換えに姿を現した召喚獣たちが俺を襲う。

 魔族本体の方はいまので力をだいぶ使ってしまったのか、かなりヘバっているようだ。

 もはや命を使い果たして、寿命も残り僅かって感じで体が萎んでいる。

 先ほどまでは若々しい姿をしていたのに、もう奴の姿は死にかけの老人にしか見えない。


 ……あれ?

 ということは、これ素直にここで戦闘不能になっておけば役目を終えた召喚獣は塵になり、あの魔族は勝手に死ぬんじゃないか?


 俺はとんでもないことに気付いてしまった。



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