ミゼットの冒険3
伯爵家の屋敷で借り受けた短剣を振るい、森のホーンラビットやその他の野生動物たちを次々に仕留めていく。
「ピギーッ!?」
「ピョゲェエエ!」
「ピギィイイ!?」
一匹狩ればその声につられて臆病な動物が反応し、動き出した気配からわらわらと芋づる式に獲物が見つかる。
臆病ではない好戦的なホーンラビットなんかも、目の前で狩られて行く仲間や魔物を見て次第に逃げ出そうとするが、あいにく職業を3つ持っている俺の身体能力からは逃れられない。
もう既に何匹もの魔物が俺の前に屈し、その命を散らしていた。
そして未だ後方でウサギとにらめっこをしているミゼットを余所に、黙々とレベル上げを進めていると、ついにスマホが振動する。
アプリがキャラクターのレベルアップを知らせてくれたらしい。
ポケットからこそこそとスマホを取り出し、キャラクターのステータスを確認する。
【レベルアップ!】
『戦士』がレベル4になり、挑発スキルを覚えました。
『神官』がレベル4になり、光弾スキルを覚えました。
『錬金術師』がレベル4になり、錬金術スキルを覚えました。
怒涛のレベルアップにより、新しいスキルを3つ取得した。
スキルを使おうと意識すると、どういう効果があるのかなんとなくわかる。
挑発は大声に魔力を乗せて生き物の注目を集め、意識をこちらに向けるスキル。
次に、光弾は闇属性の魔力を持つ生き物や魔法に対して超特効を持つエネルギー弾のようだ。
試しにその辺のホーンラビットの死体に向けて放ってみた所、頭に焼け焦げた穴が開いた。
どうやら爆発力はないが貫通力のある、一点突破攻撃らしい。
そして最後に、錬金術スキルは道具に魔力を通して物体の形状を変化させたり、合成したりすることができるようになるスキルらしいが、錬金に関しては今のところ特に出番はないだろう。
俺はレベルアップによって上昇した身体能力やスキルを確認し、ひとまずの成果を得た事からニヤつく口元を押さえて狩りを中断した。
さて、ミゼットお嬢様の方はどうなったかなっと……。
「ふっ、私の勝ちね。なかなか手ごわい相手だったわ」
「おお、お見事ですミゼットお嬢様。初めての戦いで魔物に勝つとは……」
俺の言葉につられてミゼットがふふんと胸を逸らすと、タイミングを見計らったように護衛がぱちぱちと拍手する。
いや、でもこれは自慢するだけあるな。
ただのホーンラビットといえば弱そうに聞こえるが、まだ8歳の幼女であるミゼットには職業がないだろうし、当然その恩恵も得られない。
その上体格も幼女そのものなので、運動能力はかなり心許ないはずだ。
それなのに自力で魔物に勝利するとは、中々どうして見どころがある。
だが完勝とまではいかなかったのか、ところどころに擦り傷や切り傷があるようだ。
傷の形状からしてウサギの角にやられたものではないようだから、たぶん攻撃を避けるために飛んだり跳ねたりコケたりしているうちに、徐々にダメージを負って行ったのだろう。
本人は気にしていないようだが、このまま傷を放置しておくと護衛の人達から威圧が飛ばされそうなので、初戦を勝ち抜いたご褒美も兼ねて回復してあげることにした。
「わぁ、傷が治っていくわ。これが回復魔法……」
「ちょうどいいですし、いずれ聖騎士を目指すのであれば私の使う回復魔法をよく見ておいた方がいいですよ」
見ておいた方がいいですよとは言うが、果たして見て覚えられるものかどうかは全くの不明だ。
なにせこの魔法はキャラクターメイキングの時に自動取得した力なので、どういう原理でどう鍛えたら覚えられるのかとか、そういう事は一切知らない。
ただなんとなく、見ないよりも見た方が経験になりそうだから言ってみただけである。
「当然よ。それに今のでなんとなくやり方は分かったわ。お兄様の魔法の練習を覗き見していた時に魔力の操作は覚えたから、魔法発動の基本は出来ているはずよ。回復魔法に通用するかは分からないけど、あとは練習あるのみ! もういいわよケンジ、後は家に帰って自分で試してみるから」
いやいやいや、そんな簡単に覚えられるわけがないだろう。
ははは、こやつめ。
さてはおっさんをからかっておるな?
だがそう思う俺を無視して、ミゼットはどうやれば出来そうだとか、ああやればいいんじゃないかとか、一人で自問自答を繰り返す。
ふっ、若いうちは根拠のない自信に振り回され、自分は何でも出来ると思い込むものだ。
おじさんの若い頃を思い出すよ。
どれどれ、そんなに魔法が習得できそうだというなら、レベルが上がった事で性能も僅かに改善されたであろう鑑定さんの餌食にしてやる。
得意分野くらいはいつも通り鑑定できるはずだ。
【ミゼット・ガルハート】
もう少しで回復魔法を覚えそう。
魔法と戦いの才能がある。
かなり弱い。
「ブフォッ!?」
「ちょ、何よケンジ! いきなり吹き出すなんて汚いじゃない!」
「ゲホッ、ゲホッ」
え、おいマジかよ!
嘘だろ幼女、嘘だと言ってくれ!
なんでもう回復魔法覚えそうなんだよ、おかしいだろ!
鑑定がひらがな表記から漢字表記になった感動も吹っ飛ぶくらい動揺する。
まだ職業の取得には成功していないようだけど、戦いの才能も一緒にあるみたいだから、もしかしたらあと何日か狩りに出てたらそれすらも取得しそうな勢いだ。
これが人としての才能の違いというやつなのだろうか。
人間を作りたもうた神は何て不公平なんだ、おっさんは悲しいよ。
作ったのは俺だが。
「ど、どどど、どうやらそのようですね。回復魔法のコツをお嬢様は体得しかけているご様子。ほんの小さな傷はそのまま残しておいて、自宅で回復魔法の練習に使うといいでしょう」
動揺し過ぎて思考と呂律の回らない俺はなんとか平静さを保とうとし、そのまま真実を口走る。
だがこれがまたいけなかったようで、ミゼットは訝し気にこちらを睨み、口を尖らせた。
「あら、どうして私が覚えそうだって分かるの?」
「勘です」
「……勘なの?」
「勘ですね」
「本当にそうかしら。……まあいいわ、今日は私の初挑戦が実った日よ。この魔物を冒険者ギルドに持っていて、お爺様を驚かせてあげるんだから!」
明らかに訝しみ納得していないようだったが、どうやらそんな事よりもウサギに勝利した事が嬉しいらしく、獲物を護衛に預けたミゼットはルンルン気分で町へと引き返していった。
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