第336話 『 クリエイターは大抵陰キャだから、喧嘩なんてする度胸ないっすよ! 』


「おぉ、このフィギュアもう売ってたんすねぇ」


 引き続きミケとアキバデートを満喫中の冬真。


「魔法少女まりんかちゃんの新作フィギュアだ。これ買うんですか?」

「検討中っす」


 まじまじとショーケースに飾られた展示用のフィギュアを凝視しするミケ。


「このプロポーションと髪のインナーカラーは参考になるっす」


 一般人からすればフィギュアは鑑賞するのが目的で購入するが、ミケのようなイラストレータにとっては貴重な資料としても用いられるらしい。


「お値段は……ふむふむ。一万五千円イチゴっすか」


 しばし悩み、


「在庫はまだありそう……よし決めた。帰る時に買おう!」

「流石はミケさん。買い慣れてますね」

「ふふ。当然。ヲタク歴十五年の私を舐めないでくださいっす」


 お互いヲタク歴が長いので、アキバでの買い物の仕方も熟知していた。


 まだ買い物は始まったばかりで、お店も散策している途中だ。小物なんかは気にせず購入し、フィギュアのような大型やかさばりそうな物は後半で一気に買うと移動が楽なのだ。


「冬真くんもフィギュアは後で買うタイプっすか」

「はい。気になった物は脳内メモではなくしっかりスマホにお店と一緒にメモしてます」


 同士ッ、とお互い固く握手を交わす。


「やはり冬真くんとの買い物は楽しいっすね。趣味が合うしなんでも付き合ってくれるし、何より守備範囲が広い!」


 アニメにラノベに漫画と、そういうジャンルに関して言えば同年代で冬真の右に出るものはいないだろう。


 まぁ、悪く言えば知識があるだけで何も役立つ能力ではないのだが、しかしこうして相手の趣味を共有でき、それを喜んでくれる相手がいるだけで冬真は満足だった。


 趣味を理解できず微妙な時間が続くよりも、趣味を共有して楽しい時間が続く方が何倍も心地がいい。


「にゃにゃ、こっちのフィギュアもいい出来っすねぇ」

「これは四頭分の花嫁の三女、蜜柑ちゃんですね。こっちは四女のよもぎちゃんだ」

「速攻で名前答えられるのすご」

「え、一度見たアニメのキャラの名前覚えるのって普通ですよね?」

「ヲタクならではの記憶力っすよねぇ」


 あはは、とミケの言葉に苦笑しながら肯定する。


「二次元のキャラクターの名前は覚えられるのに、現実の人の名前は中々出てこないって事ありますよね」

「そうっすそうっす。高校生の頃それで苦労したなぁ。担任の先生の名前なんかもう覚えてないっすもん。まぁ、ハル先生は先生どころか同じクラスの人の名前まで憶えてないらしいっすけど」

「ハル先生ってクレバーな人に見えて、意外とヤバ……小説一筋の人ですよね」

「私も重症だとは理解してますけど、あの人はもっと執筆ばかっすよ。頭の中小説の事しか考えてないので私より重症っす」


 言葉を最大限選んだ冬真と違い、ミケは容赦なく晴を狂人だと言い切る。


 それも付き合いが長いが故の信頼感だとは思いながらも、頬を引きつらせずにはいられなかった。


 そんな冬真に、ミケは爽やかな笑みを浮かべながら、


「でも、クリエイターなんて皆そんなもんっすよ。頭のネジ一つや二つぶっ飛んでるのは当然。むしろぶっ飛んでない奴なんていないっす!」

「それ言って大丈夫ですか⁉ なんかクリエイター全方向に喧嘩売ってないですか⁉」

「クリエイターは大抵陰キャだから、喧嘩なんてする度胸ないっすよ!」

「だからなんで全方向に喧嘩売ろうとしてるんですか⁉ 怒られても知りませんよ⁉」

「ちぇ。ハル先生なら乗ってくれるのに」

「二人は普段どんな会話してるんですか⁉」


 気になるが、聞くのが恐ろしいので止めた。何か、クリエイターの闇に触れてしまいそうな気がする。


「……やっぱり、僕たちとは住む世界が違うな。クリエイターって」


 姿形は一緒なのに、頭の中は一般人とは大きくかけ離れたミケたちに、冬真は感服と畏怖を抱くのだった。

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