第330話 『 華からのプレゼント 』


 リビングに戻ると、晴は華から渡された封筒を見つめた。


「そういえば結局、華さんから何渡されたんだろ」

「優待券とかじゃないですか」

「たしかに形状的にはそう見えるが……」


 しかし、大企業の部長を務めるキャリアウーマンんお華がそんなものを渡すとは到底思えなかった。


 彼女ならもっと、晴の意表を突くような予想の斜め上の代物を渡す気がするのだ。


「華さん。お淑やかな見た目に反して揶揄い好きだからなぁ」

「あはは。普段はそんなこと全然ないんですけどね。晴さんのことを相当気に入ってるからテンションが上がってるんだと思いますよ」

「俺気に入られるようなことしたかな?」

「結婚挨拶の土下座が気に入ったんじゃないんですかね」

「あれくらいの覚悟がなきゃ嫁にくれないと思ったんだよ」


 今となっては墓まで持っていきたい黒歴史だが、その懸命な説得があって美月と暮らせているので複雑な心境だ。


「兎にも角にも、開けてみないことには分からないか」

「私も見ていいんですかね?」

「現金だったらリアクションに困るもんな」

「あはは。では現金ではないことを祈りましょうか」


 それ以外だったらやはり優待券くらいしか思い浮かばないな、と胸中で呟きながら、晴はようやく封筒を開けた。


 果たして、その封筒の中身とは――


「……これは」

「お母さん」


 封筒から出てきたのは、二枚の紙だった。

 それをまじまじと見つめる夫婦は、思わず苦笑を浮かべて。


「お前のお母さん、エスパーなのか?」

「そんなはずないでしょう。でも、タイミング的にこれを渡されると少し怖いですね」


 華から渡されたもの。

 それは、晴と美月がずっと検討中だった――


「旅館のペアチケットとか、俺たちの事情知ってないと絶対渡さないだろ」

「お母さんなので何か企んでこれを渡した可能性も考えられますけどね」

「羽を伸ばしてきなさいってつもりで渡したと思いたいがな」


 あまり考えすぎるのも華に悪い気がするので、ここは素直に華からの厚意として受け取ることにした。


「……そういえば、この前華さんに三月予定は空いてるかって聞かれた気がする」


 一か月くらい前だったか、唐突に華から電話が掛かってきてたのを思い出す。あの時はバタバタしていたからすぐに忘れてしまったが、渡されたチケットを見ればその意味をようやく理解した。


 隣では美月も「私も聞かれた気がする」と呟いていたので、おそらく間違いない。


「これは、行かないと怒られるやつだな」

「そうですね。お母さんからの厚意を無下にしたら、後が怖いですし」


 だよな、と頷き、


「じゃあ、しっかり予定立てて行くか」

「はい。行きましょう」

「華さんに感謝だな」

「えぇ。お土産はたくさん買ってきてあげましょうか」

「ふっ。だな」


 渡された旅館のチケットを見つめながら、夫婦は義母母親に感謝するのだった。



―――――――――――

【あとがき】

そんな訳で旅行編お楽しみに。……けれどその前に、次次話から冬真とミケ編始まります。(次話はいつも通りイチャイチャ回です)

超期待しながら更新お待ちを。

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