第328話 『 その溢れる自信は一体どこから来るのかしら 』


 数ヵ月ぶりに娘の元気な姿を見て安堵したのも束の間


「そうだ。晴くん見たわよ。新作出すんですってね」

「はい。でもまさかお義母さんがご存じだとは思いませんでした」

「ふふ。晴くんの書く小説は面白いから愛読させてもらってるわ」

「なんだか恥ずかしいです」


 義母に自身の手がけている本を見られているという事実に照れる晴。そんな可愛い反応をみせる娘の旦那に口許を綻ばせながら華は「新作も期待してるわ」とエールを送る。


「それにしても、このお家は過ごしやすいわね」

「美月がいつも掃除や手入れをしてくれているので、おかげで仕事も捗ってます」


 お世辞ではなく本心から言っているというのは、晴から顔を背けて頬を赤くする娘の顔を見ればすぐに分かった。


「ちょっと褒められて喜ぶとかアナタ、ちょろ過ぎじゃない?」

「ちょろくなんてないから!」


 顔を真っ赤にしながら抗議する娘に、華はお茶を啜りながら、


「なにツンデレヒロインみたいな返ししてるの。アナタにそんな属性ないでしょ」

「詳しいですねお義母さん」

「晴くんの本読んでたらライトノベルにハマっちゃってね。この前譲ってもらった本も含めて、気づいたら新しい本棚ができちゃった」


 嫁の旦那のおかげで、華に新しい趣味ができた。ここ数年はずっと多忙続きだったが、最近は落ち着いてきて明確な休日というものを取るようになった。その休日に晴の作品を読んだり他のラノベを読むのが日課になっていた。


「いい歳した女がライトノベル読んでるなんて部下に知られたら鼻で笑われたかもしれないけど、でも娘の旦那が作家なら読んでても不思議ではないでしょ」

「もっと幅広い年代に親しんでもらえるよう精進します」

「あらあら。別に発破掛けるつもりはなかったんだけどねぇ」


 仕事熱心な晴に辟易としながら、華は視線を美月へと移すと、


「美月。晴くんをちゃんと支えてあげなさいね」

「言われなくともそれが私の役目だから。それに、執筆ばかの晴さんを支えられるのは私だけだし」

「アナタのその溢れる自信は一体どこから来るのかしら」

「日頃の行いからかな」


 と自信満々に答えた娘に強気な姿勢は自分譲りかと苦笑い。


「お前よく華さんの前で堂々と言えるな」

「事実ですから。それとも、私以外に貴方を支えられる女性がいますか?」

「いない」

「でしょう」


 断言する晴に、美月は見事なドヤ顔だ。


 美月も美月だが、晴も相当自分の娘に絆されていた。


 自分がいるから仲の良い夫婦を演じている訳では決してなく、心の底からお互いを信頼し合っている晴と美月の顔を見て、華は安堵する。


「二人とも、仲がよくて何よりだわ」

「一生に大切にすると誓いましたから」

「支えるってお母さんに誓ったから」

「二人がそれをしっかり守ってくれて、私はすごく嬉しいわ」


 自分には旦那と築けなかった絆を、二人は紡いでいる。

 それを今日感じれただけでも、来た甲斐があったというものだ。


 ――二人ならば、きっと互いを尊重し合って共に歩んでいけるはずだ。


 そんな確信を得つつも、


「(まぁ、無意識に同じコタツに入ってる時点で普段どんな風に過ごしてるかは分かっちゃうんだけどねぇ。ふふ、いつ言ってあげようかしら)」


 娘夫婦の強く硬く結ばれた絆に感動しながらも、華は胸中で愉しそうに企むのだった。


 ……余談だが、三十分後に華がようやく指摘して、美月の顔が真っ赤になったのは、もはや言うまでもないだろう。

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