第323話 『 新作でもミケと晴のコンビは続くようです 』
お参りするべく長蛇の列に並んでいると、不意にミケが袖を引っ張ってきた。
「こんな所で話すような内容でもないんすけど、ちょっと終末人形のキャラデザを修正したんでチェックして欲しいっす」
「本当にここでするような内容じゃないですね。まぁ暇なんでいいですけど」
晴の新作『破滅へ誘う
そして、その作品のイラストレーターだが、今回も『微熱に浮かされるキミと』に引き続き、ミケが担当してくれることとなった。
そこに至るまでは様々な問題があったのだが、それを話すと長くなるのでカットするが、兎にも角にも晴とミケのコンビは続く事となった。
進行度は難なく進んでいるといったところか、原稿も概ね完成状態で、今は挿絵とキャラクターのブラッシュアップの最中だった。
その修正したイラストのチェックを打診してきたミケに苦笑しながらも肯定すれば、ミケは「フォルダに入ってるんで」とスマホを操作し始めた。
どれどれ、と目を凝らしながらスマホを見れば、画面にはほぼ清書されたキャラクターの立ち絵が映っていた。
「メインヒロインのシェルナのドレスは前の赤色よりもワントーン上げて見たっす」
「ふむふむ。たしかに以前チェックした色よりもパッキリしてていいですね。こっちの方がより姫様感と気品が出ていいと思います」
「それと武器の方なんすけど、ちょっと柄は薔薇をイメージして欲しいっていうリクエストだったんすけど、こんな感じで問題ないっすか?」
「問題ありません。四条さんに見せた時と比べて変更点も少ないですよね?」
「ディティールを追求したくらいっすね」
二人揃って真剣な顔で画面に食いつく。
「武器デザなんて初めてやったんでかなり苦戦したっすけど、我ながらにいい感じに出来たと思うんすよね」
「完璧です。特にこの大型ライフルは目を瞠るものがあります」
「レーター仲間に武器デザしてる人がいたんで、その人に色々アドバイスもらったんすよ」
ふふん、とミケが上機嫌に喉を鳴らす。
「でもそれだけじゃ足りなかったんで、造形はプラモデルとか買ったり画像めちゃくちゃ見たっす」
「苦労かけてすいません」
「元はと言えばどうしてもやりたい! と無茶を言ったのは私なんですし、ハル先生に謝られるとむしろ私が申し訳なくなるっす」
「あの時のミケさんの切羽詰まった顔今でも鮮明に覚えてますよ」
「うっ。お恥ずかしい限りっす!」
忘れてください! と懇願されるも、晴は「無理です」と意地悪く返す。
ハル先生のイジワル! と頬を膨らませるミケを尻目に、晴はミケのスマホに入っているキャラクターデザインを見つめた。
主人公からメインヒロイン。そして主要キャラまで、本当に丁寧に、そして晴のイメージ通りに書かれている。
主人公である『アスト』は、明るく前向きな性格の高校生だがメインヒロインのシェルナに振り回されるキャラクター。
そしてそのシェルナは、異世界の住人で眉目秀麗、クールで品のあるお姫様でありながら、アストを見下す言動や行動が多いキャラクター。
他にもアストの幼馴染や
「今度何か奢りますよ」
「マジっすか⁉」
「はい。久しぶりに、二人でご飯食べにでもいきましょうか」
「それは流石に美月ちゃんに申し訳ないっすねぇ」
「なら美月も……金城くんも一緒に四人で食べに行きましょう」
「それなら問題なさそうっすね。じゃあ美味しいうな丼が食べたいっす!」
「いい店探しておきますね」
「いよっしゃー!」
晴の想像を具現化させてくれるミケ。そんなイラストレーターにうな丼を奢るくらい安いものだ。
両手を上げるミケを微笑を浮かべながら見つめていれば、先ほどまで四人で雑談していた美月が晴の隣に寄ってきて頬を膨らませていた。
「ミケさんと何を楽しそうに話してるんですか?」
「新作のキャラデザをチェックしてただけだ」
「ふーん。本当にそれだけですかねぇ」
「それ以外ない」
「へぇ。なーんか、一緒にご飯に行かないかって誘ってるのが聞こえたんですけど」
だから慌てて寄って来たのかと理解して、同時に肩を落とす
「安心しろ。ちゃんとお前と金城くんも連れてうな丼奢ってやる」
「太っ腹ですね」
「ミケさんには素敵なキャラデザと挿絵を仕上げてくれる日頃の感謝。お前は俺を日頃世話してくれることへの感謝。金城くんはミケさんを支えてくれることへの感謝があるからな」
「私とミケさんはともかく、冬真くんは関係ないのでは?」
「この流れで辛辣なこと言うな。金城くん仲間外れにして外食に行くとか良心が傷つくわ」
冬真だって立派にミケを支えてくれるのだ。そのおかげでミケは全力で絵と向き合えているのだから、彼にだってご褒美をあげてもいいと思う。
それに、
「冬真くん! 冬真くん! 今度ハル先生がうな丼奢ってくれるっすよ!」
「本当ですか⁉」
「本当っす! いやぁ、楽しみっすねぇ、うな丼。想像したらお腹空いてきたっす!」
既にミケが言いふらしてしまったので、今更「ごめんキミはなし」とは流石に言えなかった。
喜びの舞を踊るミケと冬真に、晴と美月は「仲が良いことで」と苦笑するのだった。
「なんだそれズルイ! 俺と詩織ちゃんにも奢って!」
「詩織さんはまだ……ただお前は自腹だ」
「やったー! ごめんね慎くん」
「恋人に裏切られた⁉」
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