第319話 『 夫婦で楽しい一年にしていきましょう 』


 もうじき、今年が終わる。


「今年は色々と濃い時間だったな」

「どうしたんですか急に」


 呆れた風に苦笑する美月に、晴は「今年を振り返ってるんだよ」と返す。


 そう言えば、美月はふむ、と顎に手を置いて、


「たしかに、私も今年は激動の一年でした」

「そら学生で結婚してるからな」


 苦笑する美月。


「今でも思うが、本当に頭がぶっ飛んでるよな俺たち」

「ちょっと、私を巻き込まないでくださいよ」

「なに被害者面してんだ。俺の無茶苦茶な要求に応じた時点で同罪だぞ」

「むぅ。たしかに出会って一日で『結婚しないか?』と提案されてそれに頷いたのは私ですが、それでも初めは付き合う事を提案するのが常なのでは?」

「俺が警察のお世話にならない為にはあれしかなかっただけだ」


 未成年と付き合うと色々と問題になりそうだったので〝結婚〟という方法で回避したが、やはり力技だったなと思う。


 ちょっぴり反省していれば、美月がくすくすと笑っていて、


「出会って一日で結婚してくれ、なんて、そんなに私が好きだったんですか?」

「お前は容姿も人並み以上に整ってたし、料理と家事ができるって言ってたからな。逃がしたら勿体ないと思って」

「そんな魚みたいな」

「目の前に垂涎ものがあって、かつ手に入れられる状況で手を伸ばさないのはアホだろ」


 それが手に入るかは別として。


「そんで、お前は俺の手を握ってくれた」

「条件がよかったので」

「俺の傍にいて幸せか?」

「えぇ。とても幸せですよ」


 言葉だけでなく、表情にもそれを表す美月。


 ならよかった、と微笑しながら、晴はぎゅっと後ろから妻を抱きしめる。


「来年もその先も幸せと思ってくれるように努力していくわ」

「ふふ。期待してますよ、旦那さん」


 微笑みを向ける美月に、晴は「おう」と淡泊に返す。

 そして再び、今年を振り返る。


「出会った翌月に本当に結婚して、数年ぶりにプールと花火大会に行って……」

「デートもたくさんしましたね」

「思いのほかな」

「最初は苦労しましたよ。執筆を優先したり、隙あらば小説の資料を手に入れようとしたり、私より小説を優先したり……貴方って本当に執筆病ですね」

「呆れるな。流石に慣れたろ」


 こんな事に慣れたくないんですけどね、と美月は苦笑い。

 それから美月はほんのりと頬を朱に染めると、


「今はそれなりにスキンシップしてますけど……昔は貴方からしてくるのをずっと待ってたんですよ?」

「踏み込んでいけない気がして中々手を出せなかったんだよ」

「もっと攻めてきて欲しかったです」

「今はお望み通り攻めてるだろ?」


 美月は「そうですね」と少し照れながら肯定。


「でも、今の晴さんは昔より遠慮がなくなって、私をとことん甘やかしにきてますよね」 

「お前が可愛い反応してくれるから衝動的にやってしまうんだよ」

「ふふ。昔は可愛いなんて中々言ってくれなかったのに」

「口にしなかっただけでずっとそう思ってはいたぞ。今は抑えきれない部分が溢れて言う回数が増えてるんだ」

「可愛いですか私は?」

「謙遜もお世辞も抜きで可愛いぞ」


 素直に吐露すれば、美月は「ありがとうございます」と口許を綻ばせた。


 本当に、彼女との時間を過ごせば過ごすほど、愛しさが増していく。


 更新が続くばかりで、限界がないから逆に困ってしまう。


「照れた顔も、怒った顔も、拗ねた顔もいいが、笑っている顔を見ている時が一番結婚してよかったと思える」

「貴方、私のこと大好き過ぎません?」

「困るのか?」

「こ、困るということはありませんけど、昔の淡泊の晴さんから今の晴さんとのギャップが凄まじくて、ちょっと困惑してます」

「そうさせたのはお前だ」


 晴の心を開いて、そうして愛情の海へ溺れさせたのは美月だ。


 彼女でなければ、こんな風に好きとか愛しているとか素面で言う事は少なかったかもしれない。


 それほど、晴は美月に感謝をしていて、愛してもいるから。


「エクレアも家族に加わって、知り合いも増えた。それなりに楽しいと思える時間も、心の底から愛しいと思える時間もできた」


 その全てをくれたのは、その全てのきっかけになったのは――


「美月。俺と出会ってくれてありがとな。それと、今年・・もよろしく」

「――はい。今年・・も、夫婦で楽しい一年にしていきましょう」


 年は過ぎ、そして新たな年を共に迎えながら、夫婦は微笑み合うのだった。


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