番外編◎ 『 カレピに求めるのは言いなりか否か 』
可憐からのご褒美の余韻に浸っていると、
「しかしまぁ、本当にたった数カ月でよくこんなに伸びたもんだなぁ」
可憐が修也の答案用紙見つめながら感心したように息を吐いていた。
「そんなに頑張らなくてもいいのに」
「約束しましたから。可憐さんと同じ大学に行くって」
「別に来年もあるんだよ?」
「だからといって油断はできません。僕は絶対、可憐さんと同じ大学に行きたい」
強く言い切れば、可憐がどうして、と言いたげに小首を傾げる。
「修也はなんで、そこまで私と同じ大学に行くことに固執するの?」
「それは……っ」
一瞬、言うべきか逡巡する。
これはとても幼稚な理由で、可憐に告げたら笑われてしまうかもしれない。
でも、修也にはどうしても、可憐と同じ大学に行きたい理由があった。
「僕、可憐さんともっと、一緒に学生生活を送りたいんです」
「? ずっと同じクラスじゃん」
「たしかに同じクラスです。来年はクラス替えもないから、必然と三年間一緒になります。けど、可憐さんと仲良くなって、こうして付き合うようになったのは、二カ月前じゃないですか」
修也の言葉に、可憐は「あぁ」と納得したようにうなった。
「修也は、もっと前から私と仲良くなりたかったんだ」
「はい」
可憐の言葉に、修也は静かな声音で肯定する。
可憐のことはずっと、クラスの高嶺の花として見ていた。美月や千鶴と並ぶ三人の姿はまさにそれで、修也たちにとっては手の届かない存在だと。
そうやって諦めていた時間が、今は心底悔しい。
「もし、過去の僕が頑張ってたら、可憐さんともっと早く恋人になって、もっと色んな学校行事を楽しめてたかもしれない」
「それはない」
「まさかの否定⁉」
ハッ、と鼻で笑われて、修也は肩を落とさずにはいられなかった。
「私と修也が付き合えたのは色んな偶然が重なった結果だよ。修也の性格を私が気に入ったから。もし修也が陽キャで、積極的に声を掛けて来てたら私は絶対興味なんて湧いてない」
「――――」
「私は、修也とメールのやり取り《あの時間》が心地よかったからキミと付き合ってみたくなったんだ」
「――っ!」
可憐が好きだと言ってくれた時間は、修也にとっては臆病で惨めだと思っていた時間だった。
会いたいと願いながら、顔を合わせて楽しく話したいと願いながら、それでも勇気が足りなくて画面越しからでしかまともに話せなかったチキン野郎の行動。
――けれどそれが、不本意にも可憐に心地よさを与えていたと知って。
それを聞いた瞬間にあの悔やんでいた時間が報われた気がしたのは、やはり卑怯だろうか。
「男気がないって思わないんですか?」
「私はカレピに男気なんて求めない。私がカレッシーに求めるのは……」
一度言葉を区切った可憐は、不意に修也の手を握った。
思わず下がっていた視線が上がれば、目の前には愛しいカノジョの顔があって。
「私がキミに求めるのは、私に安寧をくれることだけ。ぐーたらするのが好きな私に、ぐーたらさせるように
「…………」
「修也は私の
見つめてくるブラウンの瞳が、まるで脅迫のように問いかける。
けれど、それには
「可憐さんが望むなら、僕は
「ふふっ。やっぱり私は、従順なカレシを手に入れたなぁ」
この人の目が否定などさせないから。
この人の全てに魅了されるから。
だから、冬真は彼女に全てを捧げる。
彼女が修也に求めるならば、修也は彼女の言いなりになろう。
それは妄執でも歪な愛でもなく、純粋な愛故の――服従。
「じゃあ私の大切なカレシくん。帰りに肉まん食べて帰ろー」
「はいっ。あ、でも黛さんに夕飯食べられなくなるから買い食いは止めてと言われてませんでしたっけ?」
「むぅ。なら半分こすれば問題なし」
「あはは。そうですね。それなら、夕飯も食べられるかもしれませんね」
「よぉし。そうと決まれば、早くコンビニに向かうぞ~!」
修也の彼女は、凄く可愛い。
全体的にゆるふわっとしていて、穏やかな雰囲気がある。
でも時々、好奇心に突き動かされて小悪魔な一面を魅せる。それが、修也を困らせることもあるけど。
けれど、そのギャップも、普段の姿も、何もかもが愛しい。
修也の彼女は、知れば知るほど虜なってしまう女の子だ。
「……大好きです、可憐さん」
溢れる思いを抑えきれず呟かれた愛は、肉まんを楽しみにする恋人に届くことはなかった。
―――――――――
【あとがき】
本編再開までしばらく可憐ちゃん無双をお送りします。あ
ちなみに、皆さんは本作のヒロインの中で誰が一番好きかな?
コメント待ってるよ~。
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