番外編◎ 『 夕景に染まる教室でキスを 』
【まえがき】
いったいいつから、休載している間は更新しないと言っていた?
―――――――――――
「見てください可憐さん!」
期末試験も終わり、答案用紙も全て返却された放課後。修也は恋人である朝霞可憐に興奮しながらそれを見せた。
「僕、こんな点数初めて取りました!」
「おぉ、全教科70点超えてるねぇ」
「頑張った甲斐があります!」
「偉いぞぉ。我がカレピ~」
わずかに感心したような声音に、修也も満足げに笑みを浮かべる。
「順位も未だかつて取ったことがない高順位です!」
今回の試験は理数系に力を入れたのが功を奏したのか、その教科の中には90点を超えるものもある。おかげで、順位は初めての30番台に乗っていた。
「これも全て、可憐さんが勉強を見てくれたおかげですね」
そう言えば、可憐は「いやいやぁ」と甘栗色の髪を揺らしながら否定した。
「この結果はひとえに、修也が勉強頑張ったからだよ」
「――っ!」
「偉いぞぉ」
ふふ、と微笑を浮かべたあと、可憐が修也の頭を撫でてきた。
「あ、あの、可憐さん。ここ教室……」
「私たち以外誰もいないよ」
「それは、そうですけど……っ」
夕暮れ時の教室で二人きり。吹奏楽の音色やグラウンドから聞こえてくる掛け声が木霊する教室でカノジョに頭を撫でられるというのは、中々に胸にクルものがあった。
心臓がドキドキと音を鳴らしながら、修也は可憐の手の感触を堪能する。
「本当に頑張ったんだねぇ」
「可憐さん」
頭を撫でていた手がすっと目元に降りると、可憐は勉強漬けでできてしまった隈に触れながら呟いた。
「大変だった?」
「あはは。まぁ、少しだけ」
苦笑交じりに素直に吐露すれば、可憐はふむ、と顎に手を置いた。
「可憐さん?」
「頑張ったなら、ご褒美をあげないとカノジョ失格かな?」
「い、いや別にそんなことはないですけど……」
何やら不穏なことを呟く可憐に、修也はぎこちなく応じる。
「え~。修也は私からのご褒美、欲しくないんだぁ?」
「欲しいです⁉」
「ふふ。素直でよろしい」
「――ぁ」
修也にだけ向けられる微笑み。それは夕景と重なって、より一層美しく見えた。
まるで天使のような、人を虜にしてしまうような笑みは、少しずつ距離が近づいていって――
「――ん」
「――んぐ⁉」
その恍惚さに見惚れていると、可憐の唇が突然修也の唇に重なってきた。
「か、かかか可憐さん⁉ ここ教室……」
「誰もいないからいいでしょ」
「でも……っ」
「ご褒美、欲しかったんでしょ」
悪戯な笑みを浮かべながら言う可憐に、修也は顔を真っ赤にしながら喘ぐ。
「テスト、頑張ったねぇ。偉いねぇ」
褒めて、
「私の為に努力する男の子は嫌いじゃないよ」
甘い囁き声が、
「修也が頑張ってると、なんだか見てるこっちが何かしなきゃいけなくなっちゃう気がするのは不思議」
おっとりとした目が、冬真だけを見つめる。
「なるほど。これが愛しいという感情なのかもしれないなぁ」
初めて触れた感情に声を弾ませる恋人は、ふふ、と笑うと、
「二人きりの教室でキスするなんて、なんだか悪いことしてる気分だねぇ」
そっと、息が近づいてくる感覚。
ゆっくりと細い腕が背中に回ってきて、呆気取られている間に修也は可憐に捕まってしまった。
「可憐さん、大胆過ぎます……っ!」
「私たち以外誰もいないんだから、これが大胆かどうかなんて分からないでしょ」
見つめ合えば、そのまま惹かれるように――
「こういうシチュエーションもいいねぇ」
「絶対、四季さんたちには内緒ですよ」
「分かってるよぉ。じゃあ、ご褒美の続き、しようか」
「――お願いします」
なんだかラブコメみたいな展開だと、心の中でそう発狂しながら。
「「――ん」」
修也は可憐と夕暮れに染まる教室で密かに口づけを交わしたのだった。
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