第315話 『 今日も私を抱くつもりですか? 』
25日のクリスマスは、バイトから帰ってきた美月の特製ディナーと【chiffon】のケーキを食べて過ごした。
そして日付が変わるまで、残りも三時間ほどとなった頃。
「ん。クリスマスプレゼント」
「用意してくれてたんですね」
何の前触れもなく美月の手にぽん、と小箱を置けば、彼女は意外だと言いたげに目を丸くしていた。
「当たり前だろ。妻にクリスマスプレゼントを渡さない夫なんているか」
「私はてっきり昨日のデートがクリスマスプレゼントだと思ってました」
「あれは文化祭頑張ったご褒美で、これとは別物だ」
改めてメリークリスマス、と言えば、美月もメリークリスマスと微笑みながら返した。
「開けていいですか?」
「いいぞ」
わくわくしている美月に、晴は胸中で『そんな大層なものじゃないけどな』と嘆息。
マグカップに口をつけながら小箱の紐を解ていく美月を眺めていれば、彼女の手によってそれは露わになった。
「……これ」
「ネックレス」
晴から美月へのクリスマスプレゼント。それは、アメジストをはめ込んだハート形のネックレスだった。
驚きと、疑問を宿した瞳が、晴の真意を知ろうとしてくる。
「まぁ、お前が言いたいことも分かるぞ。学校にいる時は結婚指輪ネックレスとして携帯してるの知ってるし」
「なら、これはデートの時に付けろと?」
「好きにしてくれて構わない。デートの時でも、私生活の時でも――学校にいる時だって」
このネックレスを贈ろうと思ったのは、美月に、自分と結婚していることを隠さなくていいと伝えたかったから。
「友達に露呈したんなら、もう隠さなくてもいいだろ。これからは正々堂々。学校でも結婚指輪をつけてくれていい」
無論。美月が恥ずかしくなければの話だが。
どんな形であれ、晴は美月の意思を尊重する。それは、例え何があっても変わらない。
そう告げれば、美月はネックレスを見つめたまま、やがて口許を綻ばせた。
「――なら晴さんの言葉通り、これからは学校にいる時は、
晴からの贈り物を大切そうに握る美月。
「素敵な贈り物をくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして」
感謝を告げる美月に、晴は少し照れくさそうにマグカップに口をつける。
女神のような微笑みからつい視線を逸らせば、そんな夫に妻はくすくすと笑っていた。
「では、私からも晴さんにクリスマスプレゼントを」
「あるのか」
「当たり前でしょう。夫にクリスマスプレゼントを渡さない妻なんているものですか」
案外いそうだけどな、と思うのは胸の中だけにとどめておいた。
そして、美月は先の晴と全く同じことをいいながら、おそらくこのタイミングで渡そうと隠しておいたクリスマスプレゼントを手に取った。晴がどこに座るかもお見通しで、この位置から死角を狙った意図的な隠し方に、晴は「俺のことよく分かってやがる」と苦笑しながら感嘆とする。
「はい。私から旦那さんへのクリスマスプレゼントです」
妻から渡された赤い袋。それを開ければ、中から出てきたのは、
「マフラーだ」
「晴さん。寒いの苦手なのに防寒具持ってないでしょう」
「買うの面倒だったからな」
でしょうね。と美月は苦笑する。
「なので、冬にぴったりなマフラーです」
たしかに冬にぴったりだ。時期的にまだ冷える日は続くし、気温も下がる。
思慮深い妻からのクリスマスプレゼント。
やっぱりこの妻は、旦那のことをよく分かってらっしゃる。
「もう、急に抱きしめてきてどうしたんですか?」
「込み上がる喜びを伝えようと思って」
「それはつまり、嬉しかった、ということでいいですか?」
あぁ、と頷く。
これがあればきっと、厳しい冬の寒さも乗り越えられるはずだ。
「お前はつくづく最高の妻だと実感させられる」
「ふふん。もっと実感してください。貴方の妻は、世界で一番の妻なんですから」
「それが誇張でないからすげえよな」
家事万能。料理の腕は一級品。それに加えて旦那に尽くすという三種の神器ならぬ妻の神器を兼ね備えた妻だ。
おまけに甘えん坊で、美人で可愛い。
「兼ね備え過ぎだろ。ラノベのメインヒロインかお前は」
「貴方だけのメインヒロインですよ」
そんなこと言われて悶絶しない男なんていない。
「そんなに可愛いこと言うと、抱くからな?」
「えぇ。昨日もあんなにしたのに、今日も私を抱くつもりなんですか?」
「そうしたいと思わせるお前が悪い」
口を尖らせて言えば、美月はふふ、と笑う。
「いいですよ。私も冬休みに入ったので、多少の無茶はできるようになりましたから。それに、貴方を我慢させると後々が大変だと知ってますし」
本当によく分かってらっしゃる。
「無茶はさせるつもりないんだけどな」
「いつも激しく求めてくる人が何を言いますか」
「お前を愛してるからな。その気持ちを伝えようと必死になってしまうんだ」
「ふふ。いつも、愛されていると伝わっていますよ」
どうして晴の妻は、こうも晴の欲情を煽ってくるのだろうか。
それが狙ってやっているのか、無意識にやっているのかは分からない。
けれど、そんな妻にもっと愛していると伝えたいから。
「「――ん」」
今年のクリスマスは、美月と甘い時間を過ごして終わったのだった――。
――――――
【あとがき】
今話にて今年度の投稿は終了でぇございます。応援ありがとう!
次回の連載再開は1月8日くらいからです……とか言っておきながら番外編更新すると思うので実質休載なんてないww
という訳で、改めて【出会い系アプリから始まる結婚生活】を応援していただきありがとうございました。最後無理やりクリスマス前に詰め込んだ感あるけど、一気に読みできて得したと思って☆
では、また来年の更新をお楽しみにくださ~~~~い!
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