第314話 『 この熱に浮かされるのも悪くありません 』
クリスマスデートの終わりは、やはり愛情を注ぎ合わなければ締まらない。
「――んぅん。晴、さんっ」
「――美月っ」
イルミネーションの後。晴が予約していたレストランでディナーを取った。
それから帰宅し、十分に二人で湯舟で冷え切った体を温めた後、もはやすることが確定したかのようにベッドに向かった。
「
「そうですよ。ずっと、今日は貴方とするつもりでしたから」
恥じらいながらも肯定した美月に、晴は思わず苦笑。
一体いつから今夜のことを考えていたのかと、つい邪推してしまう。
荒い吐息を繰り返す美月は、頬を朱に染め上げて言った。
「晴さんのことだから、きっと今日はするだろうなって思ってました」
「誘わなきゃしないぞ?」
「嘘。絶対する」
ジト目で睨んでくる美月に、晴はわざとらしく視線を逸らす。
「流石は俺の奥さんだな。旦那のことをよく分かってる」
苦笑して、美月の唇を触れる。そのまま、深いキスへと続けていけば、美月は可愛らしい苦鳴をこぼす。
「んっ。はぁっ……今日は、たくさん遊んで……疲れてるんじゃないんですか?」
「それとお前は別腹だ」
「――んんっ」
美月の言う通り体は既に疲れ切っているが、それとは裏腹に心は美月を求めて止まない。
そう伝えるように、深いキスを続けていけば、徐々に美月も晴に応えるように積極的に舌を絡ませてきた。
ざらっとした感触。それなのに柔らかくて暖かい彼女の舌を堪能するほど、脳が蕩けていく感覚に陥る。
「あの日から、随分と積極的になったな」
「はぁ、はぁ。だって、もう我慢しなくていいですから。貴方の妻だと、胸を張って答えられるようになりましたから」
まるで枷でも外れたように、以前の美月とは違う濃密なキスをしてくれる。
「……自分でも怖いくらい、今、晴さんを求めてます」
「もっと求めてくれていい。俺も、もっとお前を感じたい」
少しだけ、変わった自分に怖気づく美月。そんな彼女の不安を拭うように、頭を撫でる。
「いいんですか? 私、晴さんが思っている以上に、貴方を求めてしまうかもしれませんよ?」
「構わない。それに応えるから。だから――」
「――んぅ」
深く。深く。愛情の海へ潜り込んでいく。美月と共に。
「ひゃんっ。……ほんとに、私の胸好きですね」
「無性に魅かれるんだよ」
まるで赤ん坊みたいな晴に、美月はビクッと肩を震わせながらも微笑みを浮かべながら見届ける。
「今日は、好きなだけ味わってくれていいですよ」
「いつものお前らしくないな」
それでもお言葉に甘えて、彼女の母性に縋る。
「だって、今日はクリスマスですから。カップルは愛し合っていい日なんです」
それを言ったら独身の人たちが血の涙を流すかもしれないが、けれど今は、晴も美月の言葉に苦笑しながら「そうだな」と頷く。こればかりは、恋人や夫婦の特権だろう。
「柔らか。それに……」
「ひぐっ……頭に、電流が走ってるみたいっ、です」
必死に快感に抗おうとする美月。
「我慢しなくていいぞ」
「我慢しなかったら、声、漏れちゃう……っ!」
「聞かせてくれ。お前の……美月の感じてる声」
嬌声が欲情をたぎらせてくれるから、だから我慢なんてしてほしくなかった。
けれど、彼女にも彼女の意地があるのだろう。やはり中々妖艶な声を上げてくれない。
「~~~~っ!」
その代わりに、美月の体は声を抑えていた反動か強く震えた。
荒い吐息を繰り返す美月は、胡乱気な瞳で見つめながら晴を促してきた。
「晴さん。そろそろ、本番、しませんか?」
それに、晴は無言で頷く。
なんとも愛らしくおねだりしてきた美月に、晴の下半身も既にやる気満々だった。
今回も美月には無理させるかもしれないな、そう思いながら避妊具を取ろうとした瞬間――美月がそれを阻むように手を掴んだ。
「どうした?」
「晴さん」
咄嗟の出来事に困惑すれば、紫紺の瞳を潤ませる美月が晴を見つめてくる。
「今日は、その、これはナシでしませんか?」
「自分が何言ってるのか、分かってるのか?」
美月の言葉を飲み込んで、晴は唖然とする。
頬を硬くする晴に、美月は凛然とした眦を向けながら強く頷いた。
「ちゃんと理解して提案してます。今日は、晴さんとそのまま繋がりたい。その為に、薬は飲んでます」
どうやら美月は最初から、今日という日の為に準備をしていたらしい。
その覚悟は理解できた。けれど、
「それだけで妊娠しないと言い切れる訳じゃない。華さんからも、お前が学生のうちは子どもができるような事態は避けてくれってお願いされてる」
引き返すなら、今のうちだろう。
美月を説得するべく、その行為に危惧があるということを、晴は彼女の肩を掴んで、静かな声音で伝える。
しかし、美月の瞳が揺らぐことはなく。
「分かってます。晴さんが言いたいこと。これが私のわがままだってことも」
「なら……」
「でも、私はもっと、晴さんを深く感じたいんです。今までよりも、ずっと強く。貴方の妻なんだって、その証明が欲しいんです」
「――美月」
今日、夫婦としての絆はまた一つ強くなったと思う。
けれどそれだけは足りない――否、より明確な証明を、美月は求めていた。
言葉では足りなくて。
キスやハグだけでは満たされなくて。
自分たちが正真正銘の〝夫婦〟だという証明を、その行為で確かめたいのだと。
「私は、晴さんの全部を知りたい。――貴方の全部を、私にください」
「――っ」
訴えかけるように懇願されてしまえば、もう。
「――きゃ」
「誘ったのは美月だからな」
押し倒せば、美月は小さな悲鳴を上げた。
一度閉じた瞼が再び開けば、そこに映っていたのは覚悟を決めた晴がいて。
「本当にいいのか?」
「……はい」
「後悔すんなよ?」
「しません。これでもし子どもができてしまっても、私たちなら大丈夫でしょう」
美月の言葉に、晴は口角を上げた。
「そうだな。俺たちなら、案外うまくやっていけそうだ」
祝福されるかは分からないけれど、けれど、夫婦の下に命が芽吹いたのなら、晴は全身全霊を尽くして母子を守ろう。
「華さんに叱られるれるかもな、俺」
「その時は一緒に怒られてあげます」
「約束だぞ?」
「はい。約束です」
頬が強張る、なんてことはない。
お互い、微笑み合って、ゆっくりとその瞬間を近づけていく。
「そのままでしたいなんて、お前は本当に度胸の強い女だ」
「だって、もっと貴方を近くで感じたかったから。貴方のありのままの熱を、何にも邪魔されたくなかったから」
「俺だって我慢してたんだからな」
「ふふ。ならよかったじゃないですか。貴方の二度目の初めて。私がもらいますね」
体勢は晴が上なのに、なんだか美月に主導権を握られているようだった。
それが少しだけ悔しくて、
「なら、美月の二度目の処女は、俺がもらうからな」
「はい。私の全部、貴方にあげます。何もかも」
――この熱も。
――この想いも。
――この溢れる愛も。
全部。愛すべき妻に贈ろう。
全部。愛すべき夫に捧げよう。
その瞬間は、もうすぐに。
「いれるぞ?」
「はい。いつでもきてください」
これが、本当に最後の忠告。それを、美月は柔らかな表情のまま受け入れる。
「――んっ」
少しずつ、繋がっていく。
時間をかけて深くまで繋がりあった刹那。美月の体が弓のように仰け反った。
「大丈夫か、美月」
問いかければ、美月は苦し気な表情で「はい」と首肯した。
それから、妻は込み上がる感情に浸るように微笑を浮かべた。
「やっと、本当の〝夫婦として〟繋がり合えましたね」
「そうだな。美月の温もりを、前よりもずっと感じる」
「私も、感じます。晴さんの逞しくて熱いのが、私の中に入っていると」
体は快楽に溺れそうなのに、胸にはじんわりと温もりが広がっていく。
それが何なのかは、もう知っている。
「私、今すごく幸せです。苦しいくらい、胸が幸せに満ちている」
「俺も同じだよ」
美月。と名前を呼んで、口づけを交わす。
「「――んぅん」」
お互いを求め合うような、情熱的なキス。時間も忘れて、ただ互いの熱を送り合う。
「頭、くらくらしてくるな」
「はい。でも、この熱に浮かされるのも悪くありません」
「ふっ。同感だ」
噛み締める。胸から全身に広がっていく、幸せという感情を。
「また、俺はお前に絆されてしまったな」
「ふふ。もっと私に夢中にさせてあげますよ」
「そしたら溺れてしまう」
「いいじゃないですか。一緒に溺れましょう」
愛情の海に。
そこにはきっと、果てなんてない。
ならばどこまで溺れられるのか、夫婦で確かめてみたい。
「動くぞ、美月」
「いつでもどうぞ。今日は……いいえ、今日も、たくさん愛情注いでくださいね」
「遠慮なんてしないからな」
「しないでください。思う存分。貴方の好きに動いて、私を堪能してください」
「なら。お望み通りたくさん注いでやる。その代わり、美月も、俺に愛情をくれよ」
「ふふ、たくさん注いであげますよ」
微笑みと、口づけを合図にして。
晴と美月。夫婦は特別な夜を過ごしたのだった。
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