第300話 『 みっちゃんのカレシさんて…… 』
テストも明け、二学期も残すところあと一週間を切った。
「おはよう、美月さん」
「おはよう、冬真くん」
一足早く教室について読書をしていると、男子生徒の一人が美月に挨拶をしてくる。
先週みっちり勉強した痕跡を瞼に残す冬真に苦笑しながら、美月は本を閉じると、
「今日からテスト返しだけど、大丈夫そう?」
そう尋ねれば、露骨に嫌な顔をする冬真。
「やっとテストから解放されたのに、現実を見せつけないでよ」
「現実はちゃんと見ないとダメだよ」
ぴしゃりと叱責するように言えば、冬真は「ごもっともです」と肩を落としながら自席に座る。
「まぁ、あれだけみっちり勉強したし、今回は空欄もなかったから大丈夫だとは思う! ……たぶん」
「自信ないなぁ」
自信があるようで、ないような曖昧な返事に美月は思わず苦笑。
それから、冬真は「あ」と何か思い出したように声を上げた。
「そういえば、ハル先生が出てる動画視たよ」
「あはは。どうだった?」
「凄く面白かった! 特にシン先生のリアクションが」
コメント欄と同じことを言う冬真。
「ハル先生もスターでシン先生のキャラに突進するのは見せ場作ってるのかなー、と思ったけど、たしか前にも同じことしてたよね」
「あの人、慎さんの時だけゲームは異常に強くなるの」
「何その嫌われそうな特殊能力。僕だったら泣いてるよ」
実際慎も泣いてるので、やはり晴の浅川慎キラーは発動しない方がいいと思う。
だが、それは晴の意思に関係なく発動してしまうことを知っている美月としては、なんとも複雑な心境だった。
「でも、それだけハル先生がシン先生のことを好きってことかもね……ってひぃ⁉」
「誰が誰を好きって?」
「な、何でもないですぅ⁉」
今は特定の単語に敏感になっている美月。その地雷を無意識に踏み抜いてしまった冬真は、美月の凄まじい圧に委縮してしまった。
「むぅ。これはまた、首輪が必要かな」
「首輪? 何のこと?」
「何でもない。こっちの話だから」
一昨日はついコメント欄に嫉妬してしまって、晴に積極的に迫ってしまった。
その時にできた
今夜も甘い時間を過ごせそうと、つい頬が緩みそうになっていると、何やら廊下から騒がしい足音が聞こえてくる。
「あいた!」
足音が美月のいる教室で止まると、それに続くように大きな声が響く。
振り返ってみれば、荒い息を繰り返す千鶴が美月を指さしていた。
どうしたんだろう、と思いながら駆け寄ってくる千鶴に挨拶しようとすれば、彼女にガッと肩を掴まれた。
「みみみみっちゃん!」
「は、はい」
何やら朝からご乱心の千鶴に呆気取られていれば、そんな美月に向かって千鶴は血走った眼で見つめながら、
「みっちゃんのカレシさんてもしかして――ハル先生⁉」
ここにも一人、美月の秘密に辿り着いてしまった少女が出てしまった――。
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