第298話 『 慎くんで発散させて? 』
お互いにお風呂も入り、就寝までの時間はアニメを見ていた。
「ふふ。こうしてカレシとくっつきながらアニメを見るって、至福以外の何もないね」
「そ、そうだね」
ふわりとシャンプーの甘い香りが絶え間なく鼻孔に入ってくるのは、詩織が慎の前に座っているから。
無邪気な笑みを魅せる詩織に、慎は湧き上がる感情を抑えながらぎこちなく頷く。
「(こんな可愛くていい匂いもするカノジョを前にして、画面に集中できる訳がない!)」
今すぐにでも抱きたい欲情を必死に抑えてるせいで、全くアニメの内容が入ってこない。
すぐ目の前に艶やかなうなじが目に入ってきて、ゴクリと生唾を飲み込む。
「? どうかした、慎くん?」
「な、なんでもないよ」
「……そう」
振り返った詩織が眉根を寄せて、慎は慌てて首を横に振った。
とにかく心を落ち着かせようとふぅ、と深く息をつけば、
「ひゃん!」
詩織の嬌声が聞こえた。
「もぉ。急に息吹きかけないでよ~。びっくりしたじゃん」
「ご、ごめん!」
ぷくぅ、と頬を膨らませる詩織がジト目を向けてきて、慎はビクッと肩を震わせる。
慣れないといけない。そう思いつつも、体は詩織の温もりを感じる度に火照っていく。
あの夫婦は平然とこれをやってのけるだと思うと、呆れよりも感服の方が勝った。
「……そら晴があの子に夢中になる訳だ」
「ハル先生がどうかしたの?」
慎の独り言に小首を傾げる詩織に、慎は「何でもない」と首を横に振った。
そしてまた息を吐くと、耳朶にふふ、と笑い声が届いた。
面白いシーンでもあったのかな、と思って視線を上げれば、何ともない日常会話で。
困惑する慎に、詩織は顔を振り向かせると「ね、慎くん」と名前を呼んだ。
「あったかいね」
「……そうだね」
詩織が笑った意味を理解して、慎は微笑を浮かべる。
それから二人。埋まっていた距離をさらに密着させる。
「あの、詩織ちゃん」
「な~に?」
「……っ」
狼狽すれば、詩織はわざとらしく小首を傾げる。
ぎゅっ、と抱きしめれば、小悪魔は愉し気に笑った。
「……誘ってるでしょ」
「何を?」
詩織の肩に顔を埋めて言えば、やはり詩織は知らない振り。
「こうやって好きな人にくっつかれて、甘い香りを嗅がされて、それで興奮しない男はいないって、詩織ちゃんは知ってるでしょ」
「どうかなぁ」
「俺、これでも詩織ちゃんの体調気遣って我慢してるんですけど」
朝早く起きる必要がない慎と違って、詩織は朝早く起きる必要がある。
「今は繁忙期って知ってるから、だから我慢してるんだよ」
「慎くんが我慢してるの知ってるよ」
やっぱりか、と嘆息する。
「詩織ちゃんのイジワル」
「慎くんが可愛い反応をみせるから、ついイジワルしたくなっちゃうんだよ」
やっぱり、慎のカノジョは小悪魔だ。
自分より年上なくせに、こういう子どもっぽいところがたまらなく好きだ。
「繁忙期を乗り越えたら、詩織ちゃんにとって楽しい楽しい正月休みがあるから、それまでするのは我慢しようと思ってたんだけど」
「今はそれだけを頼りにクソ業務を死ぬ気で終わらせて帰ってきてますから」
でもね、と詩織は微笑を浮かべると、
「せっかく同棲してるのに、一緒の時間が増えてるのに、愛し合えないのは嫌だよ」
そう言って、詩織は慎の唇を奪う。
「「――んぅん」」
長く深く、熱い口づけ。
ぷはぁ、と大きな息を吐けば、高揚した頬が言う。
「今年の正月休みは、ずっと慎くんと一緒にいられる」
「うん」
「それが幸せなことに変わりはない」
詩織の言いたいことが、なんとなく分かる気がする。
ジッと彼女の瞳を見つめれば、詩織は熱い息を吐きながら胸裏を吐露した。
「でも私は、もっと慎くんとイチャイチャしたい」
「――――」
くるりと体制を変えて、詩織が胸を押し付けてくる。
熱い吐息が、慎の鼻に触れて。
「疲れてても、溜まるものは溜まるの。それを、慎くんで発散させて?」
「我慢、しなくていいんだよね」
「うん。最悪、午前休取ればいいし」
「無理はさせないから」
だから、
「詩織ちゃん」
「慎くん」
見つめ合って、数秒。
「たくさん、私を気持ちよくしてね?」
「うん。任せて」
少しずつ距離を埋めていく唇は、軽く触れた瞬間。お互いの熱を確かめるように貪りあう。
触れて、触れられて、胸が高揚するたびに思う。
――詩織に出会えたことは、やはり奇跡だったのだと。
「好きだよ、詩織ちゃん」
「私も、大好きだよ、慎くん」
――――――――
【あとがき】
しおりんと慎のエチチ回見たいよ~、って人ー。
いたらコメントして。
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