番外編 『 ホットココアよりも甘いキスを 』

【まえがき】

番外編ってなんだ? と思わせる2話更新です。

――――――――――



 夜。お風呂も済ませ、リビングでコタツの温もりを堪能しながらくつろいでいると、美月がマグカップを二つ持ちながら晴の所へやってきた。


「はい。晴さん」

「おう。ありがとな」


 こと、と音を立ててマグカップが目の前に置かれれば、晴は美月にお礼を言って視線を下げた。


「ホットミルクか」

「寒いし、時期的にもピッタリでしょう」

「だな」


 美月の言う通りだ、と納得してマグカップを口に付けようとすれば、手が止まった。


「おい」

「なんですか」


 コタツに入ろうとする美月に、晴は一度呼び止める。

その理由は、


「三つスペースがあるのに、なんで俺と同じ所に入ってくるんだ」


 そう言えば、美月は「べつにいいでしょう」と澄ました顔をしながら晴の隣に座ってくる。


「くっついた方がより温かいじゃないですか」

「狭い」

「いつもソファでもくっついてるでしょ」


主に美月の方からがくっついて来るのだが。

顔をしかめていれば、美月は紫紺の瞳を潤ませながら言ってきた。


「そんなに一緒にいるのが嫌ですか」

「その表情はずるい」


 それが振りだと分かっていても、胸に刺さらずにはいられない。

 はぁ、と諦観するように息を吐いて、


「好きにしろ」

「ふふ。そうさせてもらいますね」


 晴の肯定を受けて、沈んでいた顔を一気に笑顔に変えた小悪魔。


 本当にこの妻は、と呆れていると、美月が埋まっていた距離をさらに密着させる。


 シャンぷーの甘い香りが鼻孔をくすぐるのは、それだけ美月が晴に密着している何よりの証拠だった。


「こうするともっと温かいです」

「甘えん坊なやつめ」

「好きですから。貴方とこうしてくっついているのは」


 そう言われて嬉しくない男はいない。

 やっぱり小悪魔、と可愛い妻に苦笑しながら、晴はホットココアを飲む。


「あま」


 けど、美味しい。


「なぁ、美月」

「なんですか――んっ」


 名前を呼べば、彼女は振り返ろうとする。

 その顔が振り向くよりも早く。晴は美月の唇に触れた。

 そして離れれば、朱に染まった頬が驚きをみせながら言う。


「また唐突にキスしてきましたね」

「お前が不用意に近づくのが悪い」

「――っ」


 あぁ照れてるな、と理解しながら、晴は朱に染まる頬に手を添える。


「やっぱりお前の顔を見ていると、ついキスをしてしまいたくなってしまう」

「……そんなの、知りませんっ」

「なら、教えてやる」

「――――」


 美月は何も返してこない。

 沈黙は肯定の証だと知っているから、晴は瞳を閉じる美月に顔を近づけていく。

 どうやら、美月も望んでいるらしい。


「――んんっ」


 唇と唇が触れて、数秒。美月の唇の柔らかさを堪能する。それから舌を入れれば、温かい息が口内に送り込まれてくる。


「晴さんの、舌っ……甘い、れす」


 舌と舌を絡め合えば、美月がそんな感想を荒い息とともに伝えてくる。


「お前の舌も、甘いな」

「――んぅ」


 甘すぎて、脳が蕩けてしまいそうなほどに。

 それは、濃厚なキスを交わし終えた後も余韻を残して、


「はぁはぁ……やっぱり、晴さんの隣は危険です」

「なら、隣に座るのはやめるか?」


 挑発的に問いかければ、美月はふるふると首を横に振る。

 それから、晴の胸に頭を押し付けてきて、


「危険ですけど、それ以上の幸せがありますから。だから、貴方の隣にいるのはやめません」

「ふっ。嬉しいことを言ってくれるもんだ。なら……」

「……もう一回、キスしますか?」

「していいか?」

「そんなの今更でしょう。私も、もっと晴さんとキスがしたいです」

「襲いてぇ」

「テストが終わったら、好きなだけ襲っていいですよ」

「言ったな? 言質取ったからな?」

「言いました。覚悟もできてます。なので、週末はばっちこいです」


 そんなことを約束されてしまっては、男としては期待が膨らむ以外の何もない。

 可愛らしく肯定してくれた美月に、晴は再びゆっくりと顔を近づけていくと、


「なら、これはその予約ということで」

「予約なら、お手柔らかにお願いしますね」

「分かってる。今日はこれで終いにする。だから」

「はい。もっと、甘いキス、しましょう」


 向けられた微笑みに口許を綻ばせながら、晴と美月はホットココアよりも甘い一時を過ごすのだった。


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