第295話 『 もっと気持ちよくなりましょうね。あ・な・た 』


「あの、美月さん。さすがにこれは……」

「何ですか。文句は受け付けませんよ」


 美月から誘われて晴のベッドに行けば、今日はやたらと積極的な美月に押し倒された。しかも、それだけで終わらず、


「両腕紐で縛るって……なんかこれ変態プレイしてるみたいなんだが」


 美月にじっとしててくださいと言われて、それに素直に従った晴も悪いが、まさか旦那の両腕を紐で拘束してくるとは思わなかった。


 そんな晴の抗議を、美月は淡桜色の唇を押し付けて黙らせた。


「貴方は、こうでもしないと勝手に胸を触ってきたり、優勢になろうとするでしょ。だからこれは、その為の予防策です」

「しないから、解いてくれ」

「ダメです。今日は、ずっと私が優勢でないといけませんから」


 たしかに美月の言う通り、これでは晴は自由が利かない。おかげで、目の前に実っている芳醇な果実に触りたくても触ることができなかった。


「んっ。んむぅ、んっ……今日は、ずっと私が晴さんを気持ちよくしてあげますから、だから貴方は何も気にせず、ただ感じててください」


 晴の自由を奪った美月は、その代わりに積極的に舌を絡めてくる。


 いつもは晴が積極的にリードしていくからか、普段のギャップもあって興奮する。けれど同時に困惑は続いていて。


「お前の嫉妬心は分かった。でも、だからってこんな事しなくてもいいだろ」

「必要なことですからこれは」

「どこがだっ」

「これは私が貴方の妻だと、貴方が私のものなんだと、そう貴方に教える為の儀式です」


 それってつまり調教なのでは、と不穏な思考が過る。

 そんな晴の思考を読み取ったかのように美月は不穏に口角を上げると、


「いつも私ばかり気持ちよくさせてもらっているので、そのお礼も兼ねて……」


 意図的に言葉を区切りると、美月の手が晴の下着を下げていく。そして、美月の手によって晴の興奮を物語らせるそれが露わになる。


美月はチラッと見たあと、指で一本ずつ、それの硬さを確かめるように握っていった。


「ふふ、晴さん。だいぶ興奮してますね。すごく硬くて、熱くなってます」

「当たり前だろ。お前から積極的にキスされて、珍しく自分から触ってきてくれてるんだから」

「そのくらいでこんなに硬くしちゃうんですか? 単純な人」

「単純で悪かったな」

「ふふ。素直でよろしい」


 美月の華奢な手が自分のものを握っている。それも積極的に。そう理解すれば、晴の下半身はより一層硬くなっていく。


 ゆっくりと、そして焦らすように美月の手が上下に動くと、脳に電気が走ったような感覚が襲ってくる。


「――っ。美月」

「何ですか? 嫌と言ってもやめませんよ」


 貴方だっていつも同じことしてるでしょ、と言われてしまえば、何も言い返せなくなる。


「腕の自由も効かずに、年下の女の子にいいようにされて、それでも興奮してるんなんて、私の旦那さんはとんだ変態さんですね」

「なら、この紐解けっ」

「ふふ。嫌です」

「小悪魔めっ」


 怪しく笑う美月が、なんとも愉しそうに喉を鳴らす。

 これは積極的にご奉仕しているというよりは、やはり調教に近いかもしれない。


「どうですか晴さん。私の手は気持ちいいですか?」


 躊躇いつつも、あぁ、と頷けば、美月は一層口角を上げた。


「ならもっと気持ちよくさせて、私が一番だって、教えないと」

「いつも言ってるだろ」

「はい。でも、それを体にも教えるんです」


 今夜の美月はまるで小悪魔だ。


「ふふ。晴さんの、びくびくしてます」

「なんでそんなに嬉しそうなんだ」

「嬉しいですよ。だって、反応してくれると、気持ちいいんだって伝わるから」


 ゆっくり。時折早く。美月は晴の反応を楽しみながら手を上下に動かす。


「――はむっ。んぅん。……どうですか、ちゃんと、上手にできてますか?」

「あぁ。気持ちいいぞ」

「ならよかった。あはっ。晴さんのその顔、なんだかゾクゾクしてきます」

「悪魔めっ」

「むぅ。悪魔じゃありません。貴方の奥さんです」


 頬を膨らませた美月が、わずかに手の握る力を強くする。


「――っ」

「強く握った方が気持ちいいんですよね」

「それ分かってて、意図的に力調整してたな?」

「ふふ。さぁ」


 本当に小悪魔だ。


 そんな小悪魔は、一度手を動かすのを止めると、貪っていた唇から糸を垂れ流して体を起こした。


「はぁ、はぁ……今夜は、最初から最後まで全部、私がしてあげますから。だから、貴方はただ気持ちよくなってください」

「もう、好きにしろ」

「ならお言葉に甘えて、好きにさせてもらいます」


 ピン、とそそり立つ晴の下半身に、美月が避妊具を被せていく。

 そして、繋がり合う直前。

 高揚する頬と艶やかに舌を舐めずさる美月が、晴を見下ろしながら言った。


「貴方は、私のものなんですからね」

「知ってる」

「誰にも、晴さんを渡しませんから」

「どこにも行かない。ずっとお前の隣にいる」

「はい。ずっと隣にいてください。ちゃんと、貴方を支えますから」


 ゆっくりと美月が腰を下ろせば、瞬間。矯正が部屋に響く。

 わずかに荒くなった息。紫紺の瞳により一層妖艶さを灯して、美月は言った、


「――貴方が他の女に取られないように、いっぱい、キスマークを残しておかないといけませんね」

「それは外に出れなくなるからやめ……」

「貴方に拒否権なんてありませんよ。――ちゅっ」


 抗議に起き上がろうとする晴を押し倒して、美月は首元や体の至る所に、情熱的な首輪キスマークを刻んでいく。


「あはっ。晴さんの、また硬くなりましたね」

「今日のお前、エロ過ぎだろっ」

「――くすっ。そんな私が大好きなくせに」


 一方的にやられながらも、晴はこうして美月に攻められるのも悪くはないと思うのだった。


「――んんっ! ……私、自分が思っている以上に、晴さんをイジめるのが好きかもしれません。貴方の感じてる顔見ていると、ゾクゾクしてきます」

「お前が上なのは今回限りだっ」

「ふふ、それは私が決めることですよ。もっと気持ちよくなりましょうね――あ・な・た」



―――――――――

【あとがき】

書いてて思ったけどこれアウトだろww

そんな訳でとにかく強気な美月サキュバスでした。

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