第291話 『 喧嘩するほど仲がいいというより、ただイチャついてるだけ 』
ゲームの撮影も終わり、お昼休憩を挟んで晴と慎は二本目の撮影となるインタビューを受けていた。
「ではまずお二人に質問なんですが、普段はどんな風に執筆されていますか?」
先に答えたのは慎。
「俺は机にフィギュアだったりプラモデルだったり、自分の好きな物を置いてテンションを上げて執筆してるかな」
「俺はシン先生とは対照的で、執筆している時は何も置かないですね。最近では飼っている猫が太ももに座ってきますけど」
「ほほぉ。つまりお二人の執筆スタイルは全くと言っていいほど正反対だということですね」
「そうなりますね。結局、執筆の捗り具合は作者のモチベーション次第ですし、それは気にしなくていいと思いますよ」
「そうそう。どこかのラブコメ作家さんは妻に見られていても平気で書けるみたいだしねぇ……ふぎゃん!」
「すいません。ここカットで」
撮影中にも関わらず余計な情報を開示しようとしたバカは沈めて次の質問に進む。
「……えーと、では次に、ハル先生へ読者の方からの質問なんですが、『どうすれば【ビネキミ】のような面白いラブコメを書けますか?』だそうです」
ふむ、と数秒思案して、
「大事なのは、単純に面白い話を書くんじゃなくて、どうすれば読み手に面白いと思ってもらえるかどうか考えながら書くことだと思いますよ。どれだけテンプレートで確実にウケる作品を書いても、それがありきたりじゃ読み手も飽きてしまうでしょうし。その中で自分なりのアクセントを加えるのが重要だと思います」
そう答えると、スタッフや待機している文佳たちから「おぉ」と感銘を受けたような吐息が聞こえてくる。
少しだけ恥ずかしいな、と思っていると、頭にたんこぶが出来ている慎が言った。
「晴はネット小説からプロになったから、読者目線は一番重要視してるよね」
「あぁ。やはり読者あっての作家だからな。その期待に応えるのは作家としての本懐だ」
「こういうところは見習わないといけないんだよなぁ」
何故だろうか。喋るたびにスタッフや文佳たちからの評価が上がっていく気がする。
どことなくやりづらい空気を感じながら、質問は晴から慎へ移る。
「それでは次にシン先生に質問です。シン先生はハル先生とは仲がいいようですが、やはりライバル視はしているんでしょうか?」
その質問に、慎は「そりゃ勿論」と肯定した。
「ハルは友達ですけど、同時にいつか追い抜きたい相手でもあります。その為に必死に書いてるので、応援よろしくね~」
「露骨なアピールだな」
カメラに向かって手を振る慎に、晴は失笑。
「あんまり張り詰めた空気にもしたくないし、少しはふざけないと」
どうやら慎なりに空気を読んでのことらしい。
相変わらず場の空気を読むのが上手い慎に感服しつつ、インタビューは続いていく。
「では一度質問の趣旨を変えて……お二人のお好きな食べ物は何ですか?」
「なんか最初に聞かれそうな質問が来た」
「あはは、これでも一応、台本通りなので」
その台本誰が書いたんだ、と疑問に思いつつも晴と慎は答える。
「俺は唐揚げが好きです」
「俺はたこ焼きかなー」
二人とも意外な物は挙げず、一般人らしい回答を出した。
「ふむふむ。次に休日の過ごし方は?」
これは素直に答えていいやつなのだろうか、と思って慎に視線で尋ねれば、彼は視線を逸らして笑いをこらえていた。
「……JK妻と過ごしてますなんて言えないもんな。くくっ」
「お前後でシバくからな……んんっ。休日は主に読書をしたり、映画を見たりして過ごしてますね」
「よかったね、美月ちゃんと結婚したおかげでこの手の質問に答えられて」
「シン先生はどういう風に過ごしてるんですかっ」
「おごふっ⁉ ……」
制裁しようにも撮影中なのでできず、代わりに足を思いっきり踏んだ。カメラ外なので踏んだ映像は記録されていないが、激痛を必死にこらえる慎はバッチリ映っていた。
「お、俺はアニメとかゲームしたり過ごしてます」
どうにか声を絞りだして答えるも、慎の顔は真っ青だった。
「……少しは加減しろっ」
「お前が余計なことばかりするからだろ」
「あ、あの、お二人とも……インタビュー続けても大丈夫ですか?」
困惑しながら訪ねる雫に、晴と慎は肘で突き合いながら、
「「えぇ、続けてください!」」
必死に取り繕いながら笑みを浮かべる小説家に、スタッフや文佳はやれやれと肩を落とすのだった。
―――――――――
【あとがき】
作「……ケンカップルだなぁ」
美「カップル?」
作「ひぃ⁉ なななんでもないです……ぎゃああああああああ⁉」
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