第290話 『 まるで勇者と魔王の構図ですね 』
ちょっとしたごたごたもありながらも、撮影は無事再開し現在、晴と慎、そして雫の三名は某有名なレースゲームをプレイしている真っ最中だった。
「おいっ⁉ なんでその順位でスターが出るんだよ!」
「そんなのお前を轢くために決まってるだろ」
いつかの日のパーティーのように、晴はありえない順位で無敵アイテムを出して慎に吶喊する。
そんな光景に苦笑しながら雫も、
「あっ。私も赤甲羅三つ出ましたよ!」
「よし。それを慎のキャラにぶつけてやりましょう」
「わっかりました!」
「対戦のはずなのに俺だけ一方的に狙われてる⁉」
動画の盛り上げ方を分かっているようで、雫も容赦なく慎のキャラに赤甲羅を発射する。
晴のキャラに轢かれて、雫のキャラから赤甲羅までくらった慎は、順位が一気に下がってしまった。
「「いえーい」」
そんな無様な慎を見ながら、晴と雫はハイタッチ。
けど、昨日の味方は今日の敵で、
「ハル先生にも赤甲羅投げちゃいますね!」
「うおっと、そうはいきませんよ」
ぺろっと舌を出した雫が残っていた赤甲羅を晴に向かって投げてくるも、晴も無敵アイテムの裏に取っておいていた緑甲羅でそれを防ぐ。
「むむっ。やりますね、ハル先生っ」
「雫さんこそ。……やれやれ。シン先生はまだその順位ですか」
「誰のせいで最下位だと思ってるんだ⁉」
「「さて誰のことでしょう」」
「もうこの二人やだあ⁉」
既に三人の空気に緊張はなく、ただ純粋に楽しくゲームをプレイしている光景が広がっていた。
「また赤甲羅⁉ しかもバックスナイプってことは……お前かあああ!」
「ちゃんと前方注意しましょうね、シン先生」
「ハル先生もよそ見はダメですよ!」
「うおっと、そこにバナナを置くのは厭らしいですね。でも引っ掛かりませんよ」
「誰だここにバナナ置いたの――――っ!」
「あ私です」
「雫さんかああああああああ!」
その後もレースは白熱し、最後のラップに入り、
「やったー! 私が一着!」
最後の最後で雫に抜かれ、晴が二位、そして慎は最下位から四位まで追い詰めていた。
「おめでとうございます。シン先生も、最後の怒涛の追い上げ凄かったですよ」
「ぜぇぜぇ……一体誰のせいでこんな必死になってると思ってるんだ」
ジロリと睨まれるも気にすることはなく、
「お前こそ毎度俺の攻撃に当たるのは何なんだ? もう意図的に当たりに来てるだろ」
「な訳あるかっ」
「動画だからって見所作らなくていいんだぞ。避けられるバナナまで引っ掛かって」
やる気満々だな、と言えば、慎はぷるぷると拳を握って、
「耐えろ俺! 今は撮影中。今は撮影中。暴力は絶対ダメだ」
「日常でもダメだろ」
「お前が言うな大賞金賞受賞だよっ」
必死に感情の奔流に抗っている慎を横目に、晴は次のレースの準備を始める。
「次は絶対、負けないからな!」
「掛かってこい。その気概ごと打ち砕いてやる」
闘志を燃やす慎に、晴はフッと微笑を浮かべて画面に向き直る。
そんな様子を司会役の雫はというと、
「あはは。なんだか、まるで勇者と魔王の構図ですね」
晴と慎のいつものやり取りを苦笑しながら眺めていたのだった。
――――――――
【あとがき】
『♡・フォロー・☆評価』など皆様の反応お待ちしています。皆様の反応がこの作品をより多くの人たちに読んでいただけることに繋がりますので、どうか応援のほどよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます