番外編◎ 『 可憐と修也の休日 』

【まえがき】

この前読者様から【可憐てどんな子だっけ】みたいな感想をいただいて、作者も「そういえば可憐、おっとり目以外の特徴書いてねえなぁ」と思ったので急遽可憐たそのお話を書かせてもらいました。投稿時間で分かるでしょww

そんな訳で、今日は可憐たそと修也くんの『付き合う前』のお話です。

―――――――――――



 本日は美月の親友の一人、朝霞可憐のお話だ。


 甘栗色のショートボブが特徴的な女の子で、目尻はおっとりとしている。身長は高校二年生の平均身長以下で、図書室の最上段にある本は足を伸ばさなければ届かない。


 語勢がなく、それと連動するように基本的にやる気がない。運動なんてもってのほかで、体力テストでは万年最下位(美月は足だけは速いのでワースト争いには参加していない)。


 料理や家事も全くと言っていいほどできないが、唯一勉強だけはできる。とはいっても幼い頃から家庭の事情で勉学だけは徹底されていたので、他の物事にやる気を示さないのはその反動かもしれない。ただ可憐本人も勉強は好きだったので、その事を悲観してはいない。


 そんな朝霞可憐には最近、気になる男子がいる。


「……暇だなぁ」


 本日は土曜日。学生にとっても大人にとっても貴重な休日だ。


 そんな日には基本部屋でダラダラするに限るのだが、ずっとそうしているのも飽きが来るのだ。


「みっちゃんはおそらくカッレシーとデートしてるだろうし、千鶴は金城のことで頭がいっぱいだろうし……うむ。絡む相手がいない」


 だからといってせっかくの休日に用事もなく外に出るのは嫌なので、またベッドでごろごろしながら時間を潰す。


「修也は暇してるかな」


 修也とは、最近ちょくちょくメールをやり取りする仲になった男子だ。


 修学旅行で少しだけ仲良くなり、最近では席も隣同士になり直接話す機会も増えた、今思えば可憐にとって初めてできた異性の友人……かもしれない。


 断定的ではないのは、可憐が修也を友人と思っていても相手がそう思っていない可能性があるからだ。


「今何してる……と」


 相手の事情などお構いなしにぽちぽちと文字を打って、それを送る。

 すると数秒後に。


『ゲームしてました』

「暇してんなぁ」


 ピコン、と音が鳴ると同時、修也が返信してきた。この反応の早さで彼の休日がどんなものなのか、なんとなく察してしまう。


 苦笑を浮かべながら、またぽちぽちと文字を打つ。


『何のゲーム?』


 三秒ほど経って。


『音ゲーです』

「すまん」


 思わず詫びてしまった。

 リズムゲームをしている時にメールが来ると腹立つよなぁ、と苦笑しながら、


『スマソ』


 絵文字付きでメールを送れば、


『気にしないでください』


 と気遣いが伺える文章が返ってきた。

 その数秒後に、先の文章と続くようにメールが送られてくる。


『休日に可憐さんと話せるなんて光栄です!』

「ふっ。大袈裟」


 陰キャはなぜ女子とやり取りするだけで感服するのだろう、と可憐はレインのやり取りを辿りながら微笑を浮かべる。


 修也も、冬真も、女子と話しただけで顔を赤くして、挙動不審になって、そして嬉しそうにはにかむのだ。


 その反応が他の男子と違うから、観察のし甲斐がある。


 ――よし。


 顎にスマホを置いて思案した可憐は愉しそうに口角を上げると、耳にスマホをあてた。


『……か、可憐さん⁉』


 驚いた声が耳朶に聞こえる。

 その反応に、可憐は笑みを堪えながら、


「や。修也たそ」

『こんにちは……じゃなくて! ど、どうして急に電話なんてしてきたんですか?』

『べつに要は何も。ただ強いて言えば、暇だから修也に構ってもらおうと思って』


 電話越しに『クハッ!』とうめく声が聞こえた。


「大丈夫かー?」

『だ、大丈夫です。……ただ、ちょっと陰キャには刺激が強すぎる理由だったので』


 どういう刺激なんだろう、と思いながら、可憐は修也に問いかけた。


「ねぇ、今暇?」

『は、はいっ。暇です。超暇です』

「すげぇ暇してるのだけは分かった。じゃあさ、私と少しお話してよ」

『ええと、僕なんかでいいんですか?』

「うん。修也と話したい」


 というか修也以外話し相手がいないだけなのだが。


 ただそう言えば、電話越しから『~~~~っ⁉』と声にもならない悲鳴が聞こえてきた。


「大丈夫かい? 修也くん」

『へ、平気です。天国がちょっと見えましたけど、平気です』

「それ大丈夫じゃなくね?」


 天国見えたら死んでるじゃん、と苦笑しながら、可憐はごろんと寝転がる。


「修也が死んだら暇な時に話せる相手がいなくなるから、だから死なないでね」

『はいっ! 絶対死にません⁉』


 ならよかったと、と口元を綻ばせて、


「それじゃあ、今から私の暇つぶしに付き合っておくれ、修也くん」

『は、はいっ。不束者ではありますが、可憐さんが暇を潰せるよう、精一杯努力します!』

「そんな気合入れなくていいよー」


 そんな些細なやり取りが、二人の距離を少し縮めて、可憐に恋心なるものを芽吹かせるのだった。



―――――――――

【あとがき】

この作品男子全員、女性に尻敷かれてるんだよなぁ。小悪魔が多すぎる。

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