第277話 『 弟に厳しい姉と甘やかしたい姉の構図 』
「――それで、ミケ先生のアシスタントと私の家で料理の練習をずっと続けていた結果、毎日のように帰りが遅くなり、勉強も疎かにして将来はどうするのかと詰問されて何も答えられなかった結果、今回の期末テストで赤点を取ったら学業に集中するようお母さんに言われたと」
「……その通りでございます」
絶叫から数時間後。お昼休みを使って再度冬真へ詳細を聞いた美月たち。
それを纏めた美月に、冬真は情けない表情でこくりと頷いた。
「はぁ。それで一つ疑問があるんだけど、冬真くん。その勉強の方とやらは……」
「全くできておりません」
「私と一緒だね冬真!」
「そこっ、共感しない!」
ぴしゃりと美月に叱責されて、千鶴はあうぅ、とうめく。
「もうっ、そういうことならなんでもっと早く言わないの。勉強を教えたのに」
「だって、ただでさえ美月さんには料理のことを教えてもらってるのに、これ以上負担を掛ける訳にはいかないから……」
だからといって学生の本分である勉強を怠る理由にはならない。
「私の負担を考えてくれるのは嬉しいけど、本当にキミはもう少し自分を優先したほうがいいんじゃないかな。他人のことばかり考えて何も打ち明けないよりも、ずっと一人で問題を抱えてるほうが苦しいでしょ」
「ううっ。その通りで何も言い返せないですっ!」
淡々と叱責すれば、冬真が涙目になってしまった。
「みっちゃんストップ! 冬真泣いてる! 泣いちゃってるから!」
「甘やかしちゃダメだよ千鶴。冬真くんには一回、きちんといい聞かせないと」
「おおぅ、まるで弟に厳しい姉と、甘やかしたい姉の喧嘩の構図だな」
可憐の言う通りである。
一人蚊帳の外というか、意図的に会話に入ろうとしない可憐が楽しそうに傍観しているも、今はそれを気にしている暇はなかった。
「みっちゃんは私たちバカの気持ちなんて分からないんだよ! 勉強したくても机に身体が向かない人の気持ち、少しは考えて!」
「そんなの考える必要がありません。第一、赤点を取るかもという危機感があるなら、その時点で勉強は怠らないべきです」
「正論パンチ! うぐぐ……勉強はできるけど運動はできないくせにっ!」
「いま運動能力は関係ありませーん」
一方的に美月に正論で殴られる千鶴は悔しそうに奥歯を噛む。
そんな二人の口喧嘩を、弟――ではなく冬真が必死に止めようと前に出るも、
「二人とも、喧嘩はやめて……」
「「ぼっちは黙ってて!」」
「友達はいるもん⁉」
女子二人の凄まじい視線と威圧に、冬真が顔面蒼白になる。
ぷいっ、と冬真から視線を外すと、二人は再びいがみ合った。
バチバチ、と火花を散らす美月と千鶴。その光景はまるで、姉妹から我が子の教育方針に対立する両親のようだった。
「いや、普通に今からテスト勉強すればよくない?」
そんな火花を沈めたのは、美月と千鶴の口論の様子をおかずにもぐもぐと呑気に昼食を取っている可憐だった。
「要は、金城が今回のテストで赤点回避すれば万事オッケーなんでしょ。みっちゃんと千鶴が揉める必要がどこにあるのさ」
「「うぐぐ」」
ここにも正論パンチを繰り出す女子がいた。しかも、二人同時にクリティカルヒットである。
うめく二人は、しばらく睨み合ったあと深い息を吐くと、
「可憐の言う通りだね。今ここでいがみ合っても意味がない」
「そうだね。まずは、冬真くんの赤点を回避させないと」
「みっちゃん。忘れてるっぽいけど、私も相当ヤバイからね」
「真顔で言うんじゃありません。全くもう」
肩に入った力が一気に抜けると、美月は紙パックのレモンティーを啜った。
乾いた喉を甘くて冷たい液体が潤していく。
そして、ふぅ、と一息つくと、
「それじゃあ今日の放課後から、早速テスト勉強開始だね」
「「イエッサー!」」
美月の言葉に、千鶴と冬真はビシッと敬礼したのだった。
――――――――――
【あとがき】
冬真の回かなと思っている読者もいると思いますが、今回は可憐ちゃその掘り下げ回です。
実は可憐ちゃそには大きな秘密が⁉
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