第274話 『 裸のお前を見てたらまた興奮してしまった 』


 盛り上がりを魅せた夜も数時間後には陽が明けて――


「――ん」


 重い瞼を開ければ、眼前にはもう見慣れた女性の顔があった。


「おはよう、美月」

「おはようございます、晴さん」


 半分も開いてない目で名前を呼べば、彼女はふふ、と微笑みながら挨拶を返した。


「身体、平気か?」

「はい。流石にあれだけしたので倦怠感はありますけど、痛みは特にありません」

「ならよかった。昨日は羽目を外し過ぎてしまったから、次の日に影響するかもと思ったが、杞憂だったみたいだな」

「羽目を外した自覚はあるんですね」


 勿論、と晴は肯定した。


「感じてるお前が可愛くてついな。我慢してた分も相まってさらに興奮してしまった」

「はぁ。貴方を我慢させるのはよくないというのが分かりました。これからは定期的に欲求を発散させないとダメそうですね」

「その言い方だと俺だけが欲求不満と言っているように感じるな。お前だって俺とするのが恋しくてつい一人で致してしまうくせに」

「そ、それは忘れてください!」


 顔を赤くする美月に、晴は「嫌だね」と舌を出す。

 それから、晴はゆっくりと腕を伸ばすと、赤面している美月を抱きしめた。


「お前が俺としたい、って思ってくれるのは正直嬉しいから、だから隠さないで欲しい」

「――っ。でも、それだとまるで私がエッチな子に思われてしまいます」

「俺はむしろそっちの方が好きだ」


 その方が晴も遠慮しないで済む。


 今は暗黙の了解で夜の営みをしているが、これからはもう少し積極的に誘ってもいいと思っている。無論、美月が嫌でなければ、だが。


「俺はお前とセックスするのは好きだ。心が満たされるし、何よりお前を身近に感じられるから」

「それは私も同じです。貴方に抱かれていると、不思議と安心するんです。……だから、身体が勝手に反応して、もっと貴方のことを欲しくなってしまうんです」


 やっぱり、美月は意外と支配欲が強い。

 けれど、それは晴も同じで。


「じゃあ、今後はもう少しする機会を増やす方針で。異論はないな?」

「まぁ、貴方がどうしてもというなら。増やしてあげてもいいですけど」


 と渋々納得するような口調の割には、口許は緩んでいるので、なんとも分かりやすい妻だった。


 愛いやつめ、と苦笑しながらより強く美月を抱きしめれば、


「……あの、晴さん」

「なんだ?」


 胸の中からぎこちない声音が聞こえて眉根を寄せれば、美月はすぽっと腕から顔を出してジト目を向けながら言った。


「晴さんのアレが、さっきから私の太ももに当たってるんですけど……」


 アレ、とはつまり、アレである。普段は柔らかいのに、血流が溜まると大きく硬くなる、不思議な棒のことだ。


「裸のお前を見てたらまた大きくなってしまった」


 しれっと答えれば、美月は大仰にため息を吐く。


「昨日あれほどしたのに、なんで朝からこんなに元気になるんですか?」

「お前が可愛いから」

「私を褒めればなんでも許されると思ってません?」

「思ってない。事実を言ったまでだ」


 嘘を吐くのが苦手という訳ではないが、今嘘を吐いても晴にメリットがないので事実を伝える。


「我慢してた分は、昨日で発散したんじゃないんですか」

「どうやら寝てる間に再装填されたみたいだなー」


 それか、朝の生理現象だ。ただ、今の場合、美月の柔らかい肌に触れて元気になった可能性が高い。


「なぁ、美月」

「……嫌な予感がします」


 ぽつりと名前を呼べば、美月は危機を察知して視線を逸らす。

 そして、その予感は正解だった。

 顔を背けた美月に、晴はぐっと顔を近づけると、


「今日は休日だな」

「ソウデスネ」

「視線を逸らしても無駄だぞ」


 強制的に逸れた視線を戻せば、紫紺の瞳を真っ直ぐに見つめて、晴は懇願する。


「襲っていいか?」

「だ、ダメです⁉」

「大丈夫。先っちょ、先っちょだけだから」

「それ絶対先っちょだけじゃないやつ⁉ ――んっ」


 布団の中で抵抗を始めた美月だが、唇さえ奪ってしまえば途端に大人しくなる。


 柔らかな唇を堪能して、舌と舌を絡めて、彼女から溢れる唾液を絡めとれば、あっという間に蕩けた顔が完成する。


「ぷはっ……本当に、貴方と言う人は、ズルい人です」

「仕方ないだろ。お前が可愛いのが悪い」


 だからつい過剰に甘やかしてしまうし、晴も晴で、身体の一部が勝手に疼いてしまう。


 その疼きを抑えるには、目の前の妻が必要不可欠だから。


「――きゃ」


 小さな悲鳴が上がる。


「本当に、朝からしちゃうんですか?」

「そのつもりだが」


 ぐっと体を起こして美月を見下ろせば、朱く染まった頬が問いかけてくる。


「バイトもないだろ」

「バイトがあったらしないんですか?」

「どうだろうな。奥さんが抵抗しなかったら、それをいいことにしてしまうかもしれない」

「どうせ嫌だと言ってもするくせに」

「それが建前で、本音はしたい、って言ってるのが分かるからな」


 美月の心臓に手を置けば、ドクン、ドクン、と大きく鼓動を鳴らしているのが伝わってくる。


「美月」

「……何ですか?」

「期待、してるんだろ?」

「――ッ!」


 悪戯な問いかけに、紫紺の瞳が大きく揺れる。

 ふいっ、と視線を逸らして、それきり美月は何も言わない。

 悟ったか、諦めたか――それとも催促しているのか。

 少しずつ荒くなっていく吐息に、晴は胸の高鳴りを抑えきれなくなる。


「朝からするって、なんか背徳感があるな」

「知りません。ばかっ」


 そんな罵倒を合図に、八雲夫婦は朝から濃密な時間を送るのだった。 



 ―――――――――

【あとがき】

ホント、なんで恋愛経験ゼロな上に童貞の自分がこんな作品書けるか不思議。これもう世界の七不思議だろww



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