第265話 『 失恋と友達 』
パタン、と屋上の扉を閉じれば、胸に残ったのは達成感に似た虚無感だった。
「――お疲れさま」
不意に声が聞こえた気がして視線を下げれば、友達が微笑みを浮かべていた。
「みっちゃん。可憐」
二人の名前を呼べば、何故か肩に張っていた力みが取れた気がした。
「あはは。私、振られちゃった」
「「…………」」
二人は無言のまま、ただ優しい目で千鶴を見つめていた。
その優しさに甘えるように、千鶴はぽつぽつと胸に留めていた感情をこぼしていく。
「私。結構頑張ったよね。好きだって気付いてもら為にアピールしたり、勇気出して文化祭誘ったり、今時ガラでもない屋上で告白したり……」
「うん。千鶴はすごく頑張ってたよ」
「偉い。偉いぞ千鶴」
まだ、彼を好きだった余韻が残る。
それを噛みしめる度に、ぽつ、ぽつん、と目頭から熱い何かが頬を伝いながら床に落ちていく。
「好き……だったの……冬真を。本当にっ、初めて、一緒にいたいって思える相手だった」
「うん」
零れ落ちていく雫は、次第に大きくなってぼろぼろと零れ始めていく。
それが、あの時の心臓の昂鳴りが嘘ではなかったと証明するようで。
「泣いていいぞ、千鶴」
「頑張ったね、千鶴。偉い、偉い」
千鶴の勇気を、悲しみを、大切な友達は抱きしめながら受け止めてくれた。
だからか、必死に堪えていた感情が、堰を切ったように溢れていく。
「うっ。あぁ……うああああああああっ」
涙が流れて、勝手に叫び声が上がってしまう。
そんな千鶴を、美月と可憐は優しく、いつまでも慰めてくれていた。
冬真と千鶴の文化祭は、こうしてほろ苦さを残しながら幕を閉じた――。
―――――――――
【あとがき】
第5章文化祭も本話で終わりです。なんともほろ苦い感じで幕を閉じましたが、続く第6章では各キャラクターが千鶴の失恋をきっかけに冬真とミケが少しずつ変わっていきます。
冬真はミケに対する恋心を自覚して振り向いてもらえるように。
ミケは冬真に対する気持ちの整理を。
今後も冬真とミケの成長と変化を見守っていただけると幸いです。
そして、千鶴ちゃん。第5章を盛り上げてくれてありがとう。
第5章では間違いなく千鶴ちゃんがメインヒロインしてました。
次は冬真が頑張る番。
では、読者の皆様、第6章【聖夜とお正月とパーティー】をお楽しみに。
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