第261話 『 今から告白してくるね 』


「――文化祭二日目終了っ! 皆お疲れさま――っ‼」

「「お疲れさま――――――っ‼」」


 文化祭の全日程が終了し、美月たちのクラスは紙コップを片手に祝杯を上げていた。


「お疲れみっちゃん」

「お疲れ、可憐」


 皆が和気藹々と文化祭の思い出を語るのを見つめていると、可憐が美月の下へやってきた。


 お互いに健闘を労いつつ、壁に背を預ける。


「可憐、よく頑張ったね」

「うん頑張った。超頑張った。褒めて褒めてぇ」

「あはは。疲れているせいかいつもより甘えたがりになってるね」


 抱きついてくる可憐が頭を擦りつけながら催促してきたので、美月は紙コップに注がれたジュースを溢さないように可憐の頭を撫でる。


 なんだか夫に甘えるどこかの妻に似ているな、と美月は思わず苦笑。


「それでぇ、みっちゃん。午後の文化祭デートは満喫できたのかね?」

「うん。ものすごく満喫できました」

「いいなぁ。私もみっちゃんと文化祭デートしたかったなぁ。カレシさんが憎い」

「ふふ。なら来年は一緒に回ろっか」

「とか言いつつ、来年もカレシさんと回るんでしょ」


 その通りではあるが、


「二日目は、でも一日目なら一緒に回れるでしょ」

「なら、来年は一緒に回ることを今のうちに予約しておこー」


 承りました、と美月は可憐に微笑む。


 美月たちも来年は三年生だ。つまり、文化祭は正真正銘最後になる。ならば、その最後の文化祭は大切な友達たちと最高の思い出を作りたい。


 そんな願いを込めながら、疲れている友達の頭を撫で続ける。


「……あの、可憐さーん。そろそろ離れてくれませんかね?」

「ふおぉ。みっちゃんから母性を感じて離れられなーい。もっと撫でてぇ」

「撫でるのは構わないけど、私からそんなに母性感じる?」


 と眉根を寄せれば、可憐は「感じる、感じる」と強く頷いた。


「この柔らかくでけぇおっぱいに頭が吸い寄せられる。まさに万有引力……いや、万乳引力っ」

「上手いこと全然言ってないからっ。なんで可憐は事ある毎に私のおっぱいにダイブしようとするの⁉」

「愚問だね。そこにおっぱいがあるからさ」


 可憐に晴の面影を感じた。


 晴も美月の胸を見たり触る度に『お前の胸は揉み応えがある。一生揉める』と真顔で言ってくるのだ。果たしてそこまで自分の胸に魔力や母性があるのかは分からないが、同姓である可憐がここまで食いつくのだから相当触り甲斐があるのだろう。


「いいなぁ。ホントでけぇなこのパイ。ちょっと分けて」

「無理です。というか可憐だってCはあるでしょ」

「私とみっちゃんと千鶴の中じゃ、一番ちっせぇのは私なんだよ」


 そして一番揉み心地があるのが美月らしい。正直にいって、嬉しいような嬉しくないような、複雑な評価だ。


「胸が大きいと苦労するんです」

「その苦労を味わえない敗者で悪かったね。勝者の特権としてその胸で今日と昨日溜まった疲れを癒してくれたまへ」

「もう。好きにすれば」


 許可を出せば、可憐は引き続き美月の胸に頭を埋めた。


 可憐も調理班としてクラスを支えた功労者の一人だ。ならば、胸の一つや二つ貸すのは安いものだろう。


 美月も家に帰れば、今夜はうんと晴に労ってもらうつもりだし。


「ところで、千鶴と冬真くんの姿が見えないけど、可憐は知ってる?」

「――んあ。……あぁ、そういえば見当たらないねぇ」


 ずっと二人が気になって教室を探していたのだが、やはり冬真と千鶴の姿が見当たらない。


 それを可憐に問い掛ければ、彼女もまた美月と揃って眉根を寄せる。


 ――もしかして。


 ある可能性が脳裏に浮上して、胸がざわついた。


「ざっと片づけたあと、二人がゴミを持って教室を出ていったのは見たけど、そこから私見てないね」

「そうなんだ」


 よっ、と胸からようやく頭を離した可憐がそう言った。


「どうする? 探す?」


 そう、可憐が問いかけた時だった。

 美月と可憐のスマホに、メールの着信音が鳴った。


 ほぼ同時に反応して、それからポケットからスマホを取り出した二人は目を見開く。


 メールの差出人は千鶴から。

 ロックを解除してアプリを開けば、画面に千鶴からのメッセージが送られていて。


 ――『今から冬真に告白してくるね』


 まだ、美月たちの文化祭は終わってはいなかった。

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