第258話 『 好きな人と手を繋ぐということ 』
「ぜぇ、ぜぇ……これが宝箱だよね」
「はぁ、はぁ……うん。そうだと思うよ」
あれから数十分後。冬真と千鶴はようやく宝箱を見つけた。
二人が息も絶え絶えなのは、ここに着くまでの道中が想像を遥かに超える凄絶なものだったからである。
「謎解きゲーかと思ったら急にミイラに襲われるし、それを切り抜けたと思ったら今度は地雷エリアがあるし……なんなのこのダンジョン⁉」
地団太を踏む千鶴に、冬真はあはは、と苦笑を浮かべる。
隠し扉が第一関門だったとすると、その次に二人に襲ってきたのはミイラの大群だった。仮装といえど迫力は満天で、千鶴は涙目に、冬真は失神寸前まで追い込まれた。
それを切り抜けたと思ったら今度は地雷エリアが二人を待ち構えていたのだ。実際には地雷ではなく、印の書かれた所を踏んでしまうと警報が鳴ってしまい、空からスライムを投げられるのだが、一発目に警報が鳴った直後にスライムを投げられた時は心臓が飛び出るかと思った。
そんな苦戦をどうにか切り抜けてようやく宝箱に辿り着けたわけなのだが、恐るべきはこれでまだ中間地点なのだ。
「これがマ〇オだったら私はゲームオーバーになってる。そうじゃなくてもへとへとなのに……」
「文化祭の出し物の中で一番手が込んでいると言っても過言ではないかもしれないね」
「そもそもクリアさせる気あるのかよ~っ⁉」
「一応、皆クリアはしてるみたいだから、決して難しい訳でもないんだろうけど……」
楽しいは楽しいが、想像以上にハードだ。
体力的にはまだ少し余裕のある冬真だが、千鶴は精神的疲労も相まって既に根を上げている。
「四季さん大丈夫? 動けそう?」
「動けるけど動きたくない」
「そんな子どもみたいな……どうする? リタイアする?」
「それは嫌だ!」
無茶は禁物なので千鶴にリタイアを提案してみれば、彼女は必死な顔になって首を横に振った。
「せっかく冬真と挑戦してるんだもんっ。だから絶対、最後までクリアしたい」
きゅっ、と拳を握りながら千鶴は言った。
ならば、
「分かったよ。ならもう少し、二人で頑張ってみよっか」
「――っ。うん」
微笑みと、そして無意識に差し伸ばしていた手に千鶴は一瞬目を見開いたあと、逡巡するように時間を置く。そして三秒後。千鶴はこくりと頷きながらその手を握り締めた。
きゅっと握られた華奢な手の感触を確かめながら、冬真は離さないように強く握り締める。
「さ、行こうかっ」
「……うん」
弱気になっている千鶴を勇気づけるように、冬真は少し前を行く。
そんな冬真の後ろ姿を、千鶴はずっと見つめていて――。
▼△▼△▼▼
――冬真。無意識なんだろうなぁ。
繋がれる手を見つめながら、千鶴は苦笑する。
優しい彼は、きっと弱気になっている自分を励ます為にこの手を繋いでくれたのだろう。
「(冬真の手。大きいな。それに、温かい)」
初めて彼の熱に触れると、胸の奥底から喜びと温もりが沸いてくる。
千鶴を必死に励まさんとしている手の温もりに、離れがたさを覚えてしまう。
「(心臓、ドキドキしてる。そりゃそうだよ。だって私、今好きな人と手を繋いでるんだもん)」
この心臓の鼓動は昂鳴っていく一方。
「(やっぱり私。冬真のこと好きなんだ)」
自覚していただが、それが友情ではなく恋情だと確定した。
瞳に映る冬真の背中を、千鶴は愛し気に見つめ続ける。
「(まだ、この時間が続いて欲しい。冬真ともっと、こうしていたい)」
出口なんてなければいいのに。
それなのにどうして、そう懇願するといつも終わりはやってきてしまうのだろう。
「(――好きだよ、冬真)」
光が二人を迎える寸前。
千鶴はぽつりと、己の胸の中でそう告白した。
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