第257話 『 いざ攻略! 巨大ダンジョン!! 』


 お互いに徐々に縮めていきながら、冬真と千鶴は校庭に出ていた。


 校庭で注目すべきは目移りするほどの屋台だが、それともう一つ注目を集めている出し物があった。


 それは、


「……なにこのドデカい迷路」


 校庭の隅に設置された――『巨大ダンジョン』だった。


 ざっと見ただけで四十メートル四方はありそうな迷路だ。簡単には攻略させないぞという意思がひしひしと伝わってくる。


 ただでさえ壮大なスケールに圧巻されているというのに、これを制作したのはどこかのクラスではなく、文化祭実行委員会と生徒会、そして先生方というからさらに驚きだ。


「興味があったから並んだけど、近づくにつれて悲鳴が聞こえてくるのはなんで?」

「ええと、パンフレットによると、『迷宮(ダンジョン)とお化け屋敷の要素を融合させたハイブリット迷路です♡ これで気になる子と急接近できること間違いなし!』……だって」

「なに私たちの学校。なんでカップル成立に積極的なの?」

「あはは、まぁ、校長がちょっと変わってる人だから仕方がないんじゃないかな」


 ちなみに、冬真たちの校長は『青春謳歌‼』を謳う人だ。悪い人ではないが、こういう行事には特に熱を入れている。校長としては少し変わっているが、生徒からの人望が厚く、人気な校長だ。


「これも校長が考えたんだろうなぁ」

「……そうみたいだね」


 パンフレットの『巨大ダンジョン』説明欄に、校長がピースしている写真が載っていた。


 見ているだけで既にお腹が満たされた気がしなくもないが、そんな会話をしているうちに冬真と千鶴の番がやってきた。


「さ、次のペアお入りくださーい」


 係員に笑顔で促されながら、二人は巨大なダンジョンを攻略すべく一歩足を踏み入れた。


「こういうの冬真得意でしょ。頑張って」

「それは僕がヲタクだからって言いたいのかな四季さんは。期待してるところ申し訳ないけど、現実と二次元の難易度はリンクしてないんだよ。だから背中押さないで怖いから!」


 端的に言って無能だが、ここはあくまで現実でおまけに文化祭の出し物だ。本物のモンスターが出てくることはまずあるまい。もし、仮に本物のモンスターが出てくれば、冬真なんか文字通り一撃で死亡イチコロである。


「冬真ってスライムも倒せなさそうだよね」

「失礼だね⁉ さすがにスライムくらいなら……倒せると思うよ」

「語尾に勢いがないぞ~」


 男だろ、と言われても、無理なものは無理かもしれない。


「イマドキのスライムって水色の人畜無害そうなやつじゃないんだからね。無限に触手を生やしたり、防御力高い鎧だって粘液でいとも容易く溶かすんだから。僕なんて骨しか残らないよ」

「そこはほら、伝説の剣でスパッスパッ、とさ」

「ハッ。四季さん。伝説の剣を持てるのは主人公だけだよ。僕みたいなモブオブザモブは、せいぜい木の棒がお似合いさ」

「さすがに鉄の剣くらいは持てるでしょ」

「僕の非力さを舐めないでほしいね」

「そこ自慢げに言うところじゃないよね⁉」


 最近ラノベにハマったからか、冬真のヲタク知識に平然とついてくる千鶴。だから話が想像以上に弾んで、居心地のよさを覚える。


「……さ、そろそろ本格的にダンジョン攻略しようか」

「よし、私もちょっと気合入れよ!」

「……ちょっとだけなんだね」

「冬真がいるし。攻略は基本冬真に任せるっ。知識無双よろしく!」

「他力本願が過ぎるよ⁉」


 そんな心地よさに包まれながらも、二人は巨大ダンジョン攻略に向けて気を引き締めるのだった。


 ▼△▼△▼▼



『ルールは至ってシンプル。ダンジョンのどこかに置かれている宝箱をゲットして、出口へ向かうだけ。道中、攻略中にモンスター(仮装した係員)が襲って来るのを回避しながらダンジョン攻略を目指そう!』


「まぁ、所詮は文化祭の出し物だし、そんなに難易度は高くないよね」

「そうそう。作り込みは凄いけど、きっと他のクラスのお化け屋敷とか迷路と大差ないはず」


 そんなことを言いながらも、内心ではちょっぴりビビっている二人。

 どうにかぎこちない笑みを貼りつけながらも、二人は直進していく。

 だが、


「あれ? もう行き止まり?」

「ホントだ」


 真っ直ぐに進み切って曲がろうとしたら、まさかの行き止まりだった。


「そんなすぐ行き止まりってある? 最初の地点から十秒も経ってないよ」

「うーん。でも壁に✕って書かれてるしなぁ」


 一応押して見みれば、壁から『ブー!』と警告音が鳴った。内側から音がしたので、おそらく係員が手動で鳴らしているのだろう。


「やっぱり進んじゃダメみたい」

「え、もしかして詰んだ?」

「始まってすぐ詰むって……クソゲーな気がするけど」


 呆気取られながら、二人は何かヒントが落ちてないかきょろきょろと周囲を見渡す。


 壁の反対側は四角形の端なので当然行き止まり。やはり次に進める道がない。


「なら、こういうのは大体隠し扉があるのが定石だと思うんだけど……」

「そういうものなの?」

「うん。直進してすぐに行き止まりがあるのは流石に不自然だし、奥から先に進んでる人たちの声が聞こえてくるから、隠し扉か隠し通路があるのは確定だと思うよ」

「さっすがヲタク~。こういう時の冬真頼りになるね」


 かなり限定的な頼られ方だなぁ、と苦笑するも、それでも頼ってくれるだけで不思議と嬉しさがあった。


 千鶴に期待されているからか、自然とやる気も湧いてくる。


「こういう謎解き要素は異世界迷宮ものでよく見ているので、しっかり観察すれば見破れるはず……」

「おぉ、冬真が主人公みたい!」

「僕はモブです」

「いやぁ、でも最近はモブが主人公の作品だってあるじゃん」

「……四季さん。どんどんラノベに詳しくなっていくね」

「どこかのヲタクの影響だよ」


 千鶴の言葉に思わず苦笑い。


 千鶴をラノベという沼に嵌めてしまったのは十中八九冬真なので、申し訳なさ半分、好きになってくれたことの嬉しさが半分な気分だ。


 そんな雑談をしていると、冬真は違和感に気がついた。


「あ、もしかしてこの壁……」


 それは直進して、最初に曲がったわずかな空間だった。


 本来ならば直進できたであろう道には壁で塞がれてしまっていたが、その壁から左を向けば不自然な蔓に覆われている壁に気付いた。


「初めは装飾かなって思ってたけど、よく見るとこの蔓、この壁だけにしかないよね」

「本当だ。冬真すご」

「えへへ。それほどでも」

「それで外したらダサいけど」

「僕も内心当たってるか冷や冷やしてるんだから、そういう上げて落とす発言しないでくれるかな⁉」


 これで勘違いだったら一生千鶴にネタにされる気がする。

 外したら笑われ者、そんな余計な緊張も混ざりながらぐっと壁を押せば、


「ひ、開いたよ! 四季さん開いた!」

「すご! 冬真すご! 流石はヲタク! ヲタク知識発揮してるじゃん!」

「素直に喜べない賞賛ありがとう!」


 褒められているはずなのに、なんだか虚しい。


 兎にも角にも次のマップに進めた訳なので、二人はつかの間の喜びを分かち合う。


「今はマップでいったら一面をクリアした感じかな」

「じゃあ、次は二面だ」

「……これ、あと何面あるんだろうね」

「それ言わないで欲しい。というか、なんかいきなりハードじゃね?」


 既に疲れたらしい千鶴に、冬真は頬を引きつらせる。


「次がゴールだったら楽勝なのになぁ」

「それで本当にゴールだったらクソゲー大賞受賞だよ……」


 二人は雑談を交わしながら、巨大ダンジョンを攻略していく。


 ただ、これはまだ序盤の序盤だということを、二人はこの後身をもって知ることになるのだった。


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