第254話 『 冬真くんも女心を勉強しましょう 』
そんな訳で冬真と千鶴は『和風喫茶』で昼食を取る事となった。
「わぁ、ここも衣装凝ってるね~」
『和風喫茶』と言うだけあってか、なんとクラス全員が和服だった。
接客はともかく調理班まで和服なのはかなり気合が入っているように思える。
感嘆としていれば、正面に座る千鶴も「ね」と同意した。
「正直、ウェイトレス服より和服の方がマシだったかも」
「あはは。四季さん、本当にあの恰好好きじゃなかったんだね」
「好きじゃない訳ではないけど、ただ、私にはああいう衣装は似合わないだけで」
「? でも四季さん、すごく似合ってたよ?」
と褒めれば、途端千鶴の顔が真っ赤になって、
「だからそういうことをしれっと言うな⁉」
「ひいっ⁉ ずびばせん⁉」
千鶴に怒られてしまった。
「まったく。なんで冬真は可愛いとか女子に簡単に言うかな」
事実だから、と言ったらまた怒られそうな気がしたので、ここは言葉をぐっと飲み込んだ。
代わりに、冬真は身を竦めながら質問した。
「……四季さんは可愛いって言われるのが嫌なの?」
「嫌っていうか……苦手というか、あんまり言われるのが好きじゃないんだよね」
可愛いと言われるのが苦手な人と初めて出会った。
意外だと目を丸くしていれば、千鶴は続けた。
「中学の頃に色々あってさ、それであんまり言われるのが好きじゃなくなったんだ」
「……そうなんだ」
ただそれだけ、と失笑する千鶴に、冬真はうまく言い返すことができなかった。
千鶴の過去は知らない。冬真はまだ千鶴と仲良くなったばかりで、お互いにまだ、相手を知らないことだらけだ。
それでも、ほんのちょっとだけ四季千鶴という友達のことを知っているから、
「僕は四季さんのこと、可愛い人だと思うよ」
「――んな⁉」
冬真の直球な言葉に、千鶴はまた顔を赤くする。今度はさらに真っ赤に。
口を金魚のようにぱくぱくさせている千鶴に、冬真はお構いなしに続けた。
「笑った顔は素敵だし、苦手なことを頑張ってる所は尊敬するし、あのウェイトレス服だってすごく似合ってたよ」
「あ、あうぅ……」
「それに、僕みたいな根暗陰キャ野郎と仲良くしてくれるのは控えめに言って女神だと思ってるよ!」
「それ以上はやめてぇ⁉」
冬真の無邪気な賞賛に、千鶴はとうとう耐え切れなくなってショートした。
真っ赤にした顔から湯気が昇って、そんな顔を隠すように机に埋めてしまった。
「なんで苦手だって言ってるのにそんなに褒めるのさ⁉ 冬真のばか⁉」
「ご、ごめん⁉ ……でも、僕は四季さんのいい所をたくさん知ってるから。それを分かって欲しくて」
むしろ悪い所が少なすぎる。
悶えるように足をばたばたさせる千鶴に、冬真は困惑しながらも己が千鶴に寄せる心情を吐露した。
が、どうやら結果は逆効果だったようで。
「ご、ごめんね四季さん。そんなに嫌がるとは思ってなくて」
しゅん、としながら謝れば、千鶴は途端必死になって、
「い、嫌じゃない! ……嫌じゃないけど、待って。今心の整理が追い付いてないから」
「は、はい」
ぎこちなく頷けば、冬真は余計なことを言わぬように口をチャックする。
それから数分ほど。千鶴の深い吐息の音と周囲の賑わう声が耳朶に木霊した。
「はぁ、やっと少し落ち着いた」
「お、落ち着いてくれて何よりです」
「誰のせいだと……はぁ、冬真は無自覚だから仕方ないか」
辟易とした風に吐息する千鶴に、冬真はわずかに身構える。
そんな冬真を千鶴はじろりと睨むと、まだ頬をほんのりと朱く染めながら言った。
「冬真はもう少し、女心を勉強したほうがいいんじゃない?」
「は、はい。勉強しますっ」
へこへこと頭を下げる冬真。そんな情けない姿に、千鶴はふ、と笑って、
「でも、褒めてくれたのは嬉しかったよ。ありがとね、冬真」
冬真に向けられた微笑み。それが窓際から差し込める陽光も相まって、より一層美しく見えた。
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