第250話 『 コスプレプレイ……検討しておきます 』
コスプレも無事(?)堪能し終えて、二人は現在外に出ていた。
「しばらくコスプレはしません」
「しばらくなんだな」
服が好き、ということもあり、どうやらコスプレ自体には乗り気だったらしい。
苦笑を浮かべていれば、美月はほんのりと頬を朱に染めながら視線だけをくれて、
「人前ではしません。でも、貴方だけになら見せてもいいかな、と」
「ほぉ。ならその時は際どいやつも着てくれるのか?」
顔を真っ赤にしながら否定するんだろうな、と思案していたのだが、
「……貴方がどうしても、というなら……検討しておきます」
返ってきたのはまさかの肯定だった。
数秒呆気に取られながら美月を見つめれば、恥じらいながらも紫紺の瞳が晴を無茶な要望を受け入れようとしていた。
なんとも可愛らしい仕草と献身的な態度に、晴は我慢していた感情を吐き出すように深いため息を落とした。
「お前、半年間で態度変わり過ぎだろ」
「それ言うなら貴方も同じです。出会った頃は、まさかこんなに甘えさせてくる人なんて思いもよりませんでした」
「お前のおねだりに応えてるだけだ」
「なら私も、貴方のお願いに応えているだけです」
そう言う美月は、なんとも男心を擽ってくる微笑みを魅せる。
そんな表情をされると、晴としても悶々として困ってしまうのだが。
「文化祭抜け出すのはありか?」
「なにバカなこと言ってるんですか。文化祭デートを満喫するんでしょ」
「いやわりと真剣なんだが。……はぁ、男って辛い」
数週間に渡って欲求を抑えているせいで、自制心が今にも爆発寸前だった。
最近は美月が多忙ということもあって夫婦の営みというものを我慢していたのだが、そのせいで晴は欲求が溜まってしまっているのだ。そこに拍車をかけるような甘い表情と態度。控えめにいってすぐに家に持ち帰りたくなってしまう。
男の苦悩をどうにか必死に堪えつつ、晴は話題を強制的に切り替えた。このままこの話を続けたら、本当に理性が持たなくなってしまう気がした。
すぅ、と深く息を吸い、
「……メシでも食うか」
「そうですね。せっかく校庭に出たので、屋台もたくさん並んでますし」
話題を昼食へと変えれば、美月がこくりと頷いた。そして、外は彼女の言葉通り、なんとも香ばしい匂いで溢れかえっていた。
「なに食べたい?」
「こんな時にまで私に気を遣わなくてもいいですよ?」
「お前に合わせるのが癖になってるだけだ。気にすんな」
デートの時は基本、美月の食べたいものに合わせて昼食を取る。すっかり身体に定着してしまった習慣なので、今更拘りなんてものはなかった。
「なんだか、晴さんの生活はどんどん私中心になっている気がしますね」
「満更でもないだろ」
「ふふ。それはどうでしょうか」
そう言えば、美月は微笑みだけを向けた。
小説より自分を優先してほしい妻なのだから、晴の生活が美月中心になっていくのは思惑通りなのだろう。まぁ、実際は美月と小説、掛けている時間はほぼ同等――小説は仕事なのでさすがに軍配が上がるか。
そんな事を頭で考えていると、顎に手を置く様さえも絵になる美月が呟く。
「せっかくなので色々と食べて回りたいですよね」
「焼き鳥も売ってるな」
「フランクフルトもありますね」
焼きそばにたこ焼き、豚汁やおにぎりもあるので、昼食に関しては問題なさそうだ。校内に戻れば模擬店もある。
「何食べたいか決めたか?」
「はい。まずは唐揚げにしましょう」
「それ俺の好物だろ」
「ふふ。誰かさんが優しくしてくれるので、私もそのお返しです」
と笑みを浮かべながら言った美月に晴は苦笑。
やれやれと肩を落としながら、
「なら、初めは唐揚げだな」
「その次は……あ、見てください晴さん、きりたんぽがあります」
「きりたんぽ⁉ ……お前の学校の文化祭どうなってんの?」
「あはは。私も驚いてます。意外性の塊ですね」
「まぁ、興味はあるから買ってみるか。食ったことないし」
「私もないかも」
「なら決まりだな」
「ふふっ。決まりですね」
きりたんぽを売っている文化祭なんてあるのかと驚愕しながら、夫婦は良い香りに誘われるまま歩いていくのだった。
―――――――――
【あとがき】
今話はどれだけ晴が美月を美味しく頂きたいか分かる回でした。ちなみに、これがエッなゲームだったら二人は……おっとサイレンの音が近づいてきたなぁ。
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