第238話 『 肝心な時に本命が来ちゃったなー 』


「いやぁ。本当に手伝ってくれてありがとう、金城くん!」

「気にしないでよ。クラスの皆が困ってるのに、放っておくなんてできないから」


 午前の調理班の一人、寺崎さんにお礼に言われて、冬真はぎこちない笑みを浮かべながら返す。


 困ってる人を助ける、というのは当たり前なのだと思っていたのが、そんな冬真の言葉に寺崎さんは目を丸くしていて。


「金城くん優男やさお~。顔もいいけど、性格もイケメンで実は料理もできるとか……キミってそんなハイスペックだったっけ?」

「ハイスペックかどうかはさておき、困ってるなら助けるのが当然だと思うけど……」

「普通の男子は狙ってる女子の前以外じゃ積極的に行動しないんだなこれが……はっ⁉

もしかして金城くん、私を狙ってるとか⁉」

「うえ⁉ ええと……」


 どう反応すればいいのか分からず困惑してしまえば、そんな冬真に寺崎さんは「冗談だよ!」とカラカラと笑った。


「いやぁ、イメチェンしてから金城くん本当に変ったよね。前まで話しかけづらい印象だったけど、今は話やすくなったし」

「そ、そうかな?」

「そうだよ。まぁ、いっつも美月さんや千鶴と話してるのを見てたクラスメイトとしては、ずっと話してみたいって興味はあったけどね~」


 クラスカースト上位に位置している二人の影響力は凄まじいようで、寺崎さんだけでなく何人かの女子は冬真に興味があったらしい。


「どう、イメチェンしてから女子にいっぱい話かけられるようになったでしょ?」


 にしし、と悪戯な笑みを浮かべる寺崎さんに、冬真は苦笑しながら頷いた。


「うん。最近は少し落ち着いたけど、やっぱり眼鏡外した直後はすごかったよ」

「あはは。まぁ、そこに私も加わってたんだけどねぇ」


 ちなみに、その時に寺崎さんからは「カノジョでもできたの?」と質問された。


 答えは当然NOだったが、なぜか隣の席の千鶴からは嫌悪感というか嫉妬めいた視線を向けられていた。その理由は未だに分からないままだ。


 最近では千鶴の親友である美月や可憐と話している時でさえ不機嫌そうな顔をされてしまうのだが、はてどうしてだろうか。


 そんな事を思案していると、寺崎さんがくいくい、と脇を突いてきた。


「それでそれでぇ、女子に優しい金城くん。キミは今、恋人なるものはいるのかね?」


 にやにやと悪い笑みを浮かべながら問いかける寺崎さんに、冬真は慌てて首を振った。


「い、いないよ。今後もできる予定もない……と思います」

「へぇ。今の金城くんなら、適当に告白しただけで女子からオッケーもらえそうだけどね」

「現実はそんな簡単じゃないんだよ寺崎さん。いくらイメチェンしたからといって、それでホイホイ女子が言い寄ってくるのは二次元の世界だけだよ」

「それはどうかな金城くぅん。女子っていうものは大半が面食いなんだよ。性格はその次」

「そ、そんな馬鹿な」

「そんな馬鹿なことがあるんだなこれが」


 たとえば、と寺崎さんがぐっと顔を近づけてきた。


「顔が良くて……人手が足りない時に助けてもらっただけで女子はすぐにそんな男子に惚れちゃうかもよ?」

「……あ、あはは」


 既視感があった。

 何故か寺崎さんの目を見れず、冬真は視線を逸らしながら言った。


「それで付き合えるなら僕だって付き合いたいよ。でも、こんなヲタクで根暗な僕と付き合いっていう女子が果たして何人いるのやら」

「いいじゃんヲタク。私アニメけっこう観るよ」

「そうなの⁉」

「おお、食いつくところそこなんだ……さっきのアプローチはピクリともしなかったのに」


 小声で寺崎さんが何か言うも、興奮している冬真には聞こえなかった。


「ねね、どんなの観るの⁉」

「食いつきかたエグ⁉ 金城くん、本当にアニメ好きなんだね」

「好きとかいうレベルの話じゃないよ。もはや僕の身体の半分以上がアニメとラノベで構成されているといっても過言じゃない!」

「あはは。金城くんめっちゃヲタクじゃん。おもしろーい」


 寺崎さんがケラケラと笑っていて、冬真ははっと我に返る。途端、遅れてやってきた羞恥心が顔を真っ赤に染め上げた。


「勝手に興奮してごめんなさい」

「いいよいいよ。また知らない金城くんの一面見れたわけだし」

「あ、あはは。そう言ってもらえると恐縮です」


 寺崎さん優しいな、と聖母みたいな笑顔に思わず見惚れてしまった。


 それから寺崎さんは一拍息を吐くと、ブラウンの瞳に好奇心めいた感情を宿しながら言った。


「金城くん、知れば知るほど面白いね。……ね、本当に今カノジョいないんだったら私と――」

「冬真」


 好奇心を宿した瞳に妖艶な光が灯った刹那、誰かに名前を呼ばれた気がした。


 その声音に寺崎さんと揃って顔を向けると、寺崎さんは「あちゃー」と悔しそうな声を上げて、


「肝心な時に本命が来ちゃったなー」

「本命?」

「金城くんは気にしなくていいーの。ほら、こっちの手伝いはもういいから、早くお友達、、、のところに行ってあげなよ」

「う、うん」


 とん、と寺崎さんに背中を押されて、冬真はぎこちなく頷きながら自分の名前の呼んだ少女の下へ駆け寄った。


 クラスの中で冬真のことを下の名前で呼ぶのは二人だけ。


 そして呼び捨てにするのは、もう一人しかいない。


「お待たせしました。ど、どうかしましたか……四季さん」

「――むぅ」


 冬真の眼前。そこには何故か、不機嫌そうに頬を膨らませる千鶴が立っていたのだった。


――――――――

【あとがき】

千鶴は冬真を好きなことを美月と可憐意外には言っていませんが、実際は皆にバレてます。それくらい千鶴は分かりやすいです。けど肝心な冬真くんは気付いてません。

……冬真ぁぁ

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