第219話 『 ……反抗期? 』
我ながらに単純だと、自分自身に呆れてしまう。
あれはただの仕返し、そうだと分かっていても、わずかな可能性に縋ってみたいと思ってしまった。
これで何かが変わる、なんてことは到底信じていないけれど、
「お、おはよー」
「あ、おはよう冬真くん――んっ⁉」
「はよ金城……およ」
朝。教室に入った冬真は先にいた美月と可憐に挨拶した――途端、二人は驚愕したように目を大きく見開いた。
なぜ、二人がそんな顔をしているのかというと、
「ええと、冬真くん……だよね?」
「はい。正真正銘、僕は金城冬真です」
やや緊張した声音で肯定すれば、美月は未だに信じられないものでも見ているかのように――眼鏡を外して髪までセットした冬真を凝視していた。
「い、いめちぇん?」
「そ、そんな感じかな」
「え、どどどうして?」
「動揺し過ぎじゃない、美月さん」
流石の混乱ぶりに、冬真は返って緊張がほぐれた。
まさかそこまで驚かれるとは微塵も想像していなかったので、冬真としては嬉しい反応だ。
「そ、それでどうかな、似合ってますか?」
「う、うん。似合ってる……と思います」
なんで敬語?
「なんかあれだな。それまで勉強一筋だった男子中学生が高校デビューしたみたいだなぁ」
「それ言わないでくれるかな朝霞さん。姉さんにも同じことを言われたんだよ」
ちなみに、冬真の姉である朱夏はイメチェンした冬真を見て「ギャハハッ!」と腹を抱えながら大爆笑していた。あの人は悪魔だ、とその時の冬真は改めて思い知った。
そんな珍事があって自信をなくしていた訳だが、こうして同年代の女子から称賛をもらえただけで不思議と自身が湧いてきた。
そんな自信を抱く冬真に、ようやく少し落ち着いた美月が聞いてきた。
「というか、急にどうしたの? 眼鏡外して、髪もセットして……反抗期?」
「なんでそれだけで反抗期って思われるのさ……ただ純粋に、僕も少し雰囲気を変えれば自信がつくかもって思っただけだよ」
根暗な自分が嫌い、とは思っていない。あれも自分の個性だとすでに割り切っている。
でも、冬真も少しだけ、陽の光を浴びてみたかった。
眼鏡を外して、髪をセットして――それですぐに暗い性格や人見知りが直る訳ではない。けれど、それを変える一歩として、容姿を整える努力から始めたのだ。
それで少しでも、憧れる〝彼女〟に近づけるように。
「――おはよ、みっちゃん。可憐」
そんな感情を抱いていると、後ろから欠伸をかいた声が聞こえた。
おはよ、と美月と可憐がその少女に向かって挨拶するのを尻目に、冬真は振り返る。
きちんと、彼女にはお礼を言わないとならない。
あれがお世辞だとは分かっていても、彼女は冬真に変えるきっかけをくれた。
でもその前に。まずはお礼の前に挨拶だ。
「おはよう、四季さん」
「――?」
ややぎこちない笑みを浮かべながら挨拶すれば、少女――千鶴は目を瞬かせる。
「みっちゃん、可憐。この人誰?」
驚いた顔しながら千鶴が問いかければ、二人は苦笑しながら言った。
「千鶴。誰じゃないよ、冬真くんだよ」
「ほえ?」
「お前の愛しの金城くんだぞ」
「はい?」
さらりと軽口を叩くも、千鶴には聞こえていないのか或は脳が処理に追いついてないのかそれに無反応だった。
呆気取られる千鶴は慌てて視線を冬真へと戻すと、そのままガシッと両手で頬を挟んできた。
「え、え、え⁉ 本当に金城⁉」
「はいそうれす。僕が金城れす」
こくこくと頷けば、千鶴は口を金魚のようにぱくぱくさせる。
やがて彼女は驚愕を顔いっぱいに埋め尽くしながら、
「うえ――――――――――――――――――――ッ⁉」
と校舎を揺らすほど絶叫したのだった。
―――――――
【あとがき】
冬真くん。遂にイメージチェンジっ。
次回は当然愛しのミケしゃんにお披露目です。
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