番外編 『 家族でお昼寝 』


「エクレア! 今日は私が晴さんとお昼寝するの!」

「んにゃー!」


 休日。


 今日は外出せず家でまったりしていると、美月と我が家の飼い猫であるエクレアがどうでもいいことで喧嘩していた。


「アナタ、平日はいつも晴さんとお昼寝してるんでしょ! だったら休日くらい私に譲ってくれてもいいでしょ!」

「にゃー! にゃにゃー!」


 美月の抗議に、エクレアは猫語で反発する。何を言っているのかは分からないが、おそらく『譲る訳ないでしょ! この泥棒猫!』とでも言ってるのだろう。たぶん。


「猫のくせになんて生意気な⁉ いい、晴さんは私の旦那さんなの⁉ アナタはペットなの!」

「にゃ! にゃにゃにゃ! にゃー!」

「何がペット差別よ⁉ 泥棒猫の如く、隙あらば晴さんに甘えるくせに!」

「にゃにゃ!」

「私が甘えるのは妻の特権ですぅ!」

「にゃー!」


 エクレアが怒っているのだけは分かった。


 人と猫の仁義なき攻防。そんな茶番劇を晴はリビングで執筆しながら見守っていた訳だが、いい加減騒がしので、


「お前たち、五月蠅い」


 ぴしゃりと一喝すれば、途端美月とエクレアは争いをやめてしゅん、となった。


「だってエクレアが……」

「にゃにゃぁ」


 まるで子どもみたく相手のせいにしようとする美月とエクレアに、晴はパソコンを閉じるとため息をこぼした。


「俺と一緒に昼寝するくらいで喧嘩するな。和ましいのは結構だが、騒がしいのは御免だ」

「ごめんなさい」

「にゃぁ」


 項垂れる美月とエクレア。


 すっかり反省モードに入った一人と一匹に脱力すると、晴はやれやれと肩を落としながら近づいていき、


「全員で一緒に昼寝すればそれで解決だろうが」


 ぽん、と美月とエクレアの頭に手を置きながら言えば、しかしそれは彼女たちは不満なようで、


「それだと貴方を独占できません」

「にゃ」


 そこだけは息ピッタリなのな、と苦笑がこぼれる。


「なんでお前らそんなに俺のこと好きなの?」

「べ、べつにそこまで好きじゃありませんけど?」

「にゃ、にゃにゃぁ」

「照れるところまでそっくりじゃねえか」


 ある意味似た者同士だな、と晴は呆れる。


 エクレアはきっと美月に拾われるべくして拾われたのだろう。そんなこと胸中で耽りながら、晴は美月とエクレアに言った。


「なら今日はどちらとも昼寝はしない」

「えぇ⁉」

「にゃにゃっ⁉」


 声を上げる美月とエクレアに、晴は「当たり前だ」と睨む。


「くだらんことで喧嘩するやつらと一緒に昼寝しても快眠なんてできないからな。それだったら一人で寝るほうが遥かにマシだ」

「そんな、あんまりです!」

「にゃにゃ!」

「どれだけ抗議しようと無駄だぞ。仲良くしないなら昼寝はしない」


 そう強く言い切れば、美月とエクレアはなんとも儚い声で鳴いた。


「で、どうする? 喧嘩をやめて二人で俺と寝るか……喧嘩を続けて昼寝する権利を剥奪されるか」


 それなら彼女たちの答えなんて決まったようなものだろうが、晴は挑発的に選択肢を与えた。


 そんな魔王の選択に、美月とエクレアは互いの顔を睨むと、やがて諦観したように吐息をこぼして、


「仕方がありません。貴方とお昼寝したいので、今日は我慢することにします」

「にゃにゃ」


 折れた美月に、エクレアも賛同するように鳴いた。


「よし、そうと決まれば昼寝するか。俺も丁度区切りいいところまで書けたし、一時間くらい昼寝して……その後は買い物に行くか」

「――っ。そうですね。一緒にお買い物行きましょう」

「……にゃぁ」


 嬉しそうに微笑みを浮かべる美月と、除け者にされた気がするエクレアは不満そうに鳴く。一緒に買い物にはいけないエクレアには、あとでご褒美に高いご飯とナデナデをしなければならなそうだ。


「うし、じゃあ毛布持ってくるから、くれぐれも喧嘩だけはするなよ?」

「はーい」

「にゃー」


 八雲家の休日は、こんな感じで過ぎていく。


「ふふ。右に私。左にエクレア。両手に花というやつですね」

「ハーレム主人公みたいに言うな。お前は妻でエクレアは猫だ」

「だとしても、どっちもメスであることに変わりはありませんから」

「果たして自分でメスっていう女性がこの世にどれほどいるだろうか……くあぁ」

「ふふ。可愛らしい欠伸……ふあぁ」

「にゃぁぁ」

「ふっ。やっぱ休日は昼寝するに限るなぁ」

「ですねぇ」

「にゃぁ」


 家族全員で欠伸をかきながら、ほどなくして夢の世界に誘われるのだった。

 余談だが、夢の中で美月とエクレア(女体化)が争うのはまた別の話。

 

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