第215話 『 そろそろFになるかもしれない……そんなEです 』
模擬店準備の楽しみの一つといえば、やはり衣装合わせだろう。
「……美月さん、ずっと思ってたけどおっぱい大きいよね」
「そ、そうかな」
現在、教室は着替えの為に女子たちが占拠していた。
オアシスさながらの絶景を拝めない男子たちは血の涙を流している最中だが、女子たちにそんなことは関係なく、同姓だからこそ可能な話題に大いに盛り上がっていた。
「ねぇねぇ、この胸、何カップあるの⁉」
「私も気になる⁉」
「そ、そんなに?」
異様に食いつくクラスメイトに困った表情を浮かべれば、彼女たちはこくこくと頷いて、
「だって、私たちのクラスで一番おっぱいが大きいの美月さんだもん」
「いやいや、下手したら学年で一番大きいよ」
「……あの、真剣な顔しながら人の胸の話するのやめてくれるかな?」
本人たちに他意はないは理解しているが、美月としてはかなり恥ずかしかった。
ほんのりと頬を朱に染めながら話題を変えようとした直後、唐突に胸が軽くなった。
「それで、キミのこのデカパイは何カップなのかな?」
「可憐⁉ なに勝手に人の胸持ち上げてるの⁉」
「愚問だね。そこに持ち上げられそうなおっぱいがあるからだよ」
ぽよんぽよん、と美月の胸を揺さぶりながら言う可憐。
そんな可憐は戸惑う美月を無視してなおも胸を堪能する。
「ふぉぉぉ。なにこのパイ柔らけぇ」
「ちょっとこの変態誰か捕まえて⁉」
興奮している可憐に危機感を覚えて叫ぶも、それは誰にも届くことはなかった。
それは何故かというと、
「いーなー! 私も触りたい!」
「私も!」「私も!」
「なんで誰も助けてくれないの⁉」
皆が美月の胸を触りたがってしまったからだ。
「ああもう! 好きなだけ触っていいよっ」
これは抵抗も無駄だと悟ると、美月は抵抗をやめて皆が満足するまで触らせた。
「本当に柔らかーい」だとか「半分くらい欲しい」とか「マジデカぱい」などと遠い目をしながら感想を聞いていれば、この事態を招いた可憐が「それで?」と訊ねてくる。
「このおっぱい、何カップなん?」
「……Eです」
「ほほぉ? 本当に?」
相変わらずおっとりと目つきのくせに名探偵ばりに鋭い。
ジッと凝視してくる視線に耐え切れずに目を逸らせば、美月は観念したように吐露した。
「そろそろ、Fになるかもしれない……そんなEです」
「みっちゃん数カ月前までDだったよね?」
可憐の言葉に、一同が「DからF⁉」と驚愕していた。
「いったいどうやったらそんなに大きくなるの⁉」
「……さ、さぁ?」
思い当たる節がある……といえば、ある。
ただそれを素直に白状してしまうと余計に面倒事に巻き込まれると察知したので適当にはぐらかそうとすれば、しかし親友が平然と裏切った。
「カレシさんに日頃揉んでもらってるからだろ」
「可憐~~~~~~~っ⁉」
しれっ、と言った可憐に、美月は生まれて初めて殺意込めて絶叫した。それに対し、可憐は「めんご」となんとも軽い謝罪で返してきた。
絶対許すもんか、と視線で語れば、可憐は口笛を吹きながらそっぽを向いた。
そして、クラスメイトたちは可憐が投下させた爆弾発言のせいでより一層盛り上がった。
「待って美月さん、今カレシいるの⁉」
食いつくのも当然だと、納得しつつも肩を落とす。
「……う、うん」
「あ、私見たことあるかも! たしか一度、雨の日に瀬戸さんに傘を届けてた人だよね⁉」
「そ、そうです」
「超イケメンらしいぞぉ」
「可憐は黙ってて⁉」
既に隠れて、というより美月に話を聞きたい女生徒たちに埋もれてしまっている可憐がどこからともなくまた余計な情報を投下してくる。
「どんな人、ねぇどんな人⁉」
「ええと……普通の人です」
「たしか年上の人だよね⁉ 大学生⁉ それとも社会人⁉」
「い、一応……社会人です」
「「すげぇ美月さん(瀬戸さん)⁉」」
全員の圧に押されて、応えたくないのに口が勝手に動いてしまう。
「ひょっとして文化祭に来る⁉」
「う、うん。お願いは、した」
「めっちゃ見たい!」
「……あ、あんまり期待しても損するだけだと思うよ。有名人でもないし……いや本当は有名人だけど」
「大丈夫! 美月さんのカレシっていう時点で皆興味あるから!」
期待を掛け過ぎでは、とは思うものの、こうして一度盛り上がってしまったJKたちの熱はしばらく下がらない。おそらく、文化祭当日に晴の顔を見るまで彼女たちの興味が引くことはないだろう。
「……これ、晴さんに言ったら絶対に来ないだろうな」
ごめんなさい晴さん、と胸中で謝りながらも、それでも美月は一緒に文化祭を回りたいことを優先して、当日まで旦那にはこの事は内緒にしておくのだった。
――――――――
【あとがき】
おや? 美月のお胸の様子が……?
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