第205話 『 は、ハル先生……へるぷみぃ~ 』


「ぐあぁぁぁ」


 朝。目覚めとともにミケに襲ったのは、ひどい頭痛と吐き気だった。


「うぷ。気持ち悪。完全に飲み過ぎたっすね……うぷっ」


 昨晩の記憶が曖昧で、おまけに視界もぐるぐるしている。


 どうにか思い出さそうとしても、頭が鈍器で叩かれているような痛みが走ってそれどころではなかった。


「……詩織ちゃん。会社行ったのかな」


 力を振り絞ってスマホの電源を点ければ、時刻は十一時過ぎた頃。それなら、詩織は既にミケの家を出て出社しているだろう。家にミケ以外の人気もないし。


「こんなに飲んだの初めてな気がする」


 ごろん、と身体を仰向けになって天井を見つめる。


 いつもなら、起きてしばらくは今と同じようにダラダラする。それから絵を描き始めるが、今日はその気すらなかった。


 休むか。


 特段急ぎの案件もないので、一日くらい休んでも問題はない。ただ、二日酔いで休む、というのは罪悪感があった。


 今頃サラリーマンやOLたちは必死に働いてる時間帯だろう。そう思うと、途端に申し訳なさというか後ろめたさを感じてしまって。


「あーむりむりっす。起きようとしても起きれないぃ」


 頑張って身体を起こそうとしてもミケの言う事を聞いてくれなかった。


「普段あまりお酒を飲まない反動なんだろうけど、それにしても貧弱過ぎっすね私の身体」


 ふふ、と自嘲がこぼれる。


 ――こういう時こそ、誰かが傍にいて欲しい。そう思ってしまう。


「母ー。父ー」


 弱ってる時って、何故か無性に実家に帰りたくなる。まぁ、二日酔いで倒れたと言ったら呆れられるだろうけども。


「お粥食べたいー。レトルトじゃなくて手料理のやつぅ」


 そういえば風邪を引いた時は母がいつも作ってくれたな、と思い出す。


 お婆ちゃんは生姜湯を作ってくれたりして、お爺ちゃんは「大丈夫かい?」と心配してくれた。


 今も実家にいる飼い猫のミケも、ミケを凄く心配してくれた。


 でも、今は誰もミケの周りにはいなかった。


「……ぐす」


 人は弱っていると、涙も流しやすくなる。


「……うぷ」


 依然、吐き気は収まる気配はない。

 頭もガンガンと鳴り響いている。

 視界もぐらぐらと回っている。


 ――こういう時、誰に頼ってたっけ?


 助けて欲しい時。いつも無意識に頼っていた人のことを思い出す。


「……た、耐えられないっす」


 ミケの仕事のパートナーで、不愛想だけど優しい人。ミケを心配してくれて、助けて欲しいと懇願すればいつだって駆けつけてくれた――


「は、ハル先生……へるぷみぃ~」


 死にかけのミケは、必死に文字を打つ。それはまるで、ダイニングメッセージのように。


 晴にこんなメールを送るのはいつぶりだろうか。


 そんなことを思いながら最後の力を振り絞って――ミケは画面も確認しないままメッセージを送ってしまった。


 ――――――――――――

【あとがき】

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