第201話 『 消費ブタと自分で言うのはシンプルにキモい 』
――最近。クラスで不思議な光景を目にする。
それは、
「ねね金城! この間おススメしてくれたラノベめっちゃ面白かった!」
「それは良かった」
本なんて全く読まない千鶴から〝ラノベ〟なんて単語が飛び出した異常な様と、以前は異性と話すだけでビクビク震えていた冬真が微笑んでいる様。
去年は何の接点もなければ話すこともなかった二人が、今は楽しそうに語っていたのだ。
「小説家って凄いな! なんで文章だけでそこがどんなシーンなのか想像できちゃうんだろ⁉」
「だよねだよね! 戦闘描写書いてる人とか本当に尊敬しちゃう!」
「あと絵も!」
「そうなんだよ! ラノベはイラストレーターさんが毎回神みたいな絵を描いてくれるからより萌えるし興奮するんだ。いやはや、これだけで消費ブタになった甲斐があるというもの」
「やっぱ金城きめぇな」
「なんで罵られたの⁉」
「消費ブタと自分で言うのはシンプルにキモい」
休み時間の度に盛り上がる隣席同士。
仲睦まじいのは大変よいことなのが、こうも急速に距離が縮まると美月も戸惑ってしまう。
まぁ、千鶴という少女は明るい上に接しやすいから、打ち解けるのに時間が掛からないのは理解している。当の美月も千鶴とはすぐに仲良くなったし。
そして冬真の方も、初めは人(特に女性)と話すだけでビクビクと震えていたが、最近は美月やミケと接する機会が増えていくらか異性と話す時の緊張が緩和されたようだ。
最初から万遍なく人と接することのできる千鶴と、最近妙に女慣れしてしまった冬真。
そんな二人の相性は客観的に見れば良いようで。
「……みっちゃんの前の席のお二人。随分と仲が良いみたいですな」
小声で呟く可憐に、美月も「そうだねぇ」と小声で肯定した。
「千鶴があんなに男子と楽しげに話すの初めて見た」
「まぁ、他と比べて話が弾んでるように見えるのは気のせいじゃないかもね」
男子といるよりも美月と可憐と一緒にいることが多い千鶴。そんな彼女がこうして冬真との会話を優先するのは珍しい。
「いったい何があったというのかね?」
「ええとね、どうやらこの間二人で買い物に行ったみたい」
「ほほぉ。それってつまりデートでは?」
「ではないと思うよ。普通に楽しく本選んでた」
「みっちゃんなんで知ってるの?」
やば。
「……という話を冬真くんから聞いたのでござる⁉」
「激しく動揺してるでござるなお主。さては後を付けたのではないかぁ?」
「ひょ、ひょんなことありませんけど……」
「みっちゃんは嘘吐くの下手だねぇ」
うぅ、と真っ赤になった顔を掌で覆いながら、美月は可憐に言い訳した。
「違うんだよぉ。たまたま買い物してたら二人を見かけて、気になったからちょっと後を付けてただけなの」
「立派なストーカーじゃないかチミィ。まぁ、かくいう私もその場にいたら絶対後を付けてたと思うけど」
やっぱするんかい。
そう胸中でツッコみながら頬を引きつらせれば、太ももに倒れ込んできた頭を撫でながら美月は言った。
「ね、可憐から見てあの二人どう思う?」
「どう思う、とは?」
「ただの仲のいい友人に見える?」
視線を下げて問えば、可憐はふ、と鼻息をついてから言った。
「それは個人の見方によって異なると思うよ。みっちゃんはたぶんお似合いだと思ってるんだろうけど、それは私も同意見だ」
ぐおぉ、と脱力しながら千鶴は続ける。
「そもそも千鶴は男と付き合ったら急にどう接すればいいのか分からなくなってテンパるからね。それがないということは、そういうことなんだろ」
千鶴に初々しさがない、という現状を鑑みて、可憐は二人は付き合ってはおらず、ただ話が合う異性の友達だと判断した。
そのおっとりした目つきに反して鋭い考察を説く可憐に脱帽しながら、美月はふぅと息を吐く。
「……本当にそれだけならいいんだけどね」
独りごちた言葉を可憐は拾うことはなく、うがぁぁ、と人の太ももで背伸びするのだった。
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