第198話 『 今日は頼りにしてるよ、金城 』

【まえがき】

この間読者さんに教えてもらったんですけど、なんと本作が番外編含め200話突破したらしいです。やー、なんでこんなハイペースなんだろ???

――――――――――――



 黒猫が未知の感情にしている一方で、冬真はというと、


「……はぁ。せっかくの休日がどうしてこんなことに」

「なーに辛気臭い顔してんのさ。せっかく女友達と一緒に買い物できるってのに」

「いだっ⁉」


 げんなりと肩を落とせば、カラカラと笑いながら千鶴が背中を叩いてきた。


 彼女としては励まそうとしているのだろうが、結構な威力で叩かれた冬真としては素直に喜べなかった。


 いてて、と背中をさすりながら冬真は千鶴を見つめる。


「(うぅ、やっぱり背中がむず痒いというか、場違い勘が凄いや)」


 こうして同年代の女子と一緒に歩いているだけで違和感があった。


 最近はミケや美月といった女性との交流が増えたといえ、冬真はまだ性根は冴えない陰キャなのだ。だから当然、女性への耐性もない。


 そんな自分が休日に女子とお出かけである。……バグか?


 そんなことを思惟していると、見つめられていることに気が付いた千鶴が「ん?」と眉をピクリと上げる。


「どうした金城。そんな熱い視線送ってきて」

「何か語弊がある言い方しないでくれるかな⁉ それだとまるで僕が四季さんを好きみたいじゃん⁉」

「安心しろ金城。お前は対象外だ」

「でしょうねぇ!」


 陽キャの千鶴に陰キャ眼鏡野郎の冬真が似合うはずもない。それは重々自覚済みだから今更だが、こうして本人からハッキリ伝えられると以外にも傷つく。


 そんな冬真を千鶴は腹を抱えながら笑っていて。


「あははっ。やっぱ金城面白いな」

「どこが⁉ 僕、正直言って物凄く帰りたいん気分なんだけど⁉」

「え~。つれないこというなよぉ。それにまだ目的地に向かって歩いてるだけじゃん」


 ぐいぐいと肘で腕を突きながら千鶴が言う。


 たしかにその通りなのだが、ミケの家から出た瞬間からこれまでずっと胃が痛いのだ。


 慣れない状況に息苦しさを感じながら、冬真は愉快げに口許を緩める千鶴に問いかけた。


「本当に今更なんだけどさ、四季さんはいいの? こんな休日に陰キャでヲタクの僕なんかと一緒にいて」

「よくそんな平然と自分を卑下できるな……べつに私が誰と一緒にいようが勝手でしょ」

「思考が陽キャだ」


 冬真にはない思考に驚嘆とさせられる。

 誰といようが構わない。楽しさを最優先する思考がまさに陽キャだった。


 自分はこの人には相応しくないから、と悲観的な思考をする冬真とは真逆の性格。

 見ていて眩しいくらいだった。


「それに、今日は私から金城にお願いしたんだろ。オススメのラノベを教えてくれてって」

「それはそうだけども……」


 それが今日、冬真と千鶴が共に行動している理由である。目的地も、それが豊富に置かれている所だ。


 ラノベに興味を示してくれたこと事体は嬉しいが、やはり納得がいかなかった。


「僕なんかより、もっと仲が良い人と一緒に行けばいいと思うけど……」

「むぅ。なんでそんなこと言うのさ」


 不服そうに頬を膨らませる千鶴。しかし冬真は淡々と返した。


「だって、千鶴さん僕よりずっと友達多いでしょ」

「倍以上はいると思う」

「そこは僕のことを慮って欲しかったな……ともかく、その中でなんで僕なんかが抜擢されたのか理解ができないんだけど」


 買い物なら俄然仲いい友達といった方が盛り上がるはずだ。それに、異性より同姓と一緒のほうが気楽だろう。


 けれど千鶴は、異性でしかも大した交流もない冬真を選んだ。


 その答えを求めるように千鶴の瞳を真っ直ぐ見つめれば、彼女は一つ息を整えたあとに教えてくれた。


「金城が警戒するのも無理ないか。私たち、最近友達になったばかりだし」

「教えてくれると助かります」

「そんな身構えんなって。もっと気楽に行こうよ」


 ぐっ、と鞄の帯を握る冬真に、千鶴は白い歯を魅せる。

 今日、千鶴が冬真を選んだ理由。それは――


「私が、金城ともっと仲良くなりたかったからだよ」

「――ぇ」


 答えに、冬真は困惑する。


 ――仲良くなりたい? こんな僕なんかと?


 唖然とする冬真に、千鶴は穏やかな笑みを浮かべたまま続けた。


「ほら、修学旅行で意外と二人で話すのも楽しかったし、席替えで席も一緒になったじゃん。それに金城はみっちゃんとも仲いいし。だから、仲良くなるのは当たり前じゃん」


 それが当然だと言うように語る千鶴だが、冬真は未だに納得できていない。

 ただ、その言葉は不思議と胸に温かさをくれて。


「……僕は、四季さんと仲良くなっていいのかな?」


 ぽつりと呟けば、千鶴は眉間に皺を寄せた。


「何言ってんの。仲良くなっていいに決まってるじゃん。それに、今日はそのために一緒に遊んでるんでしょ」

「そうなの?」

「……逆に金城はどうして呼ばれたと思ってるのさ」

「オススメのラノベを熱く語ってきめぇと罵られたあと、馬車馬の如く荷物運びをさせられるのかと」

「そんな悪魔みたいなことしないから⁉ てかなんで妙に現実味帯びてるんだよ⁉」

「よく姉さんに荷物持ちさせられるんだ僕」

「なんか悲しい人生だな」


 憐れないでほしい。


 いたたまれない空気が流れ始めるもそれはすぐさま千鶴が手で振り払い、彼女は「だから!」と顔を近づけてくる。


「今日はもっと、友達と仲良くなる為に遊ぶの!」

「――っ」


 真っ直ぐにぶつけられた想い。それに思わず、目頭が熱くなってしまった。


 友達。そう呼んでくれただけでも嬉しいのに、もっと仲良くなりたいと言われてはどう返せばいいのか困ってしまう。


 そんな想いを冬真に寄せてくれたのは、千鶴が初めてだった。


 小さい頃から人見知りで、誰かと話すのが苦手なせいで冬真は周囲から距離を置かれていた。悪いやつではないけれど暗くてつまらないやつ、皆がそう陰口を叩いていたのは知っているし、事実だから何も言い返せなかった。


 そんな、孤独の時間の中で――初めて光に照らされた感覚。


 本当に、千鶴の言葉がただただ嬉しかった。


「(どうしたら、彼女の想いに応えられるんだろう)」


 悩み、考えて、これしかないなと決断する。


 彼女の想いに応えられる方法は、今はこれくらいしか思いつかなかった。

 袖で強引に涙を払って、冬真は千鶴に眦を向けた。


「うん。なら僕も、今日は全力で四季さんにオススメのラノベを紹介するよ!」


 向けられた期待には全身全霊で応える――否、応えたいから、全身全霊を尽くすのだ。


 そんなやる気を魅せる冬真に、千鶴はにししと笑いながら、


「うん。今日は頼りにしてるよ、金城」


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