第196話 『 ストーカーじゃないよ、心配で見守ってるだけだよ 』
「……なんで私はこんな事を」
自己嫌悪に苛まれながら、ミケは電柱からとある人物を見守って――否、ストーカーしていた。
そのとある人物とは、言うまでもなく冬真だ。
あれから朝食を済ませたミケは、お皿を洗い終わってアパートを出た冬真の動向が気になって絵どころではなくなってしまい、こうしてストーカー行為に及んでしまった訳だ。
「はぁ……心配というわけではない。なら、この感情は何なんすかね」
身体を突き動かしてくる謎の衝動に不快感を覚えて、ミケはため息を吐く。
冬真は友達と遊ぶだけ。なのに、どうしてか胸騒ぎがするのだ。
「(最近はよく、胸がざわつくっす)」
数カ月前からか、ミケの心臓は異常に早くなったり、痛いくらい苦しくなることがあった。
何かの病気だろうか、と思惟するも、ご飯は食べられるし身体は元気だったので杞憂だろうと無視していた。だが、今日もまた、胸がざわつき始めたのだ。それこそ、彼が今日はもう帰ると言ったあの瞬間から。
「……うぐぐ。何なんすかねこの気持ち悪さは」
消化不良を起こしているような感覚がずっとまとわりついて取れない。
この行為にその答えがあるのかは分からないが、今はただこの衝動に駆られるままに変態行為に及ぶことにした。
「……こんなところ知り合いに見られたら終わりっすよぉ」
周囲を窺いながら、ミケは冬真を追跡していく。
冬真に気付かれても終わり、知り合いにバレたら人生終了というどちらに転んでも死が待っているのは恐怖でしかなかった。
どちらかと言えば後者の方が地獄な気がするな、とそんな考えていると本当に知り合いに遭遇しかねないと思考を振り払うも遅かった。
「あれミケさん? 何してるんですか?」
「――――」
声を掛けられた瞬間。ミケの身体がビクッと震える。
「(ままままさか⁉)」
それからねじ巻き式の人形みたいにギギギと音を立てながら首を振り返せば、そこには知り合いの中でもエンカウントしたくなかった二人だった。
「ハル先生……美月ちゃん……」
終わった。
冷や汗を流すミケに、八雲夫婦は揃って首を傾げる。
運命の神様とは本当にクソで、人の願いを尽く踏み躙っていく。まぁ、ミケが特大級のフラグを立ててしまったから運命が軌道修正したせいもあるが。
羞恥心で死にたい気持ちでいっぱいになりながらも、ミケは掌を合わせると、小声で言った。
「とりあえず、二人ともかがんでくれます?」
かくして、八雲夫婦を巻き込んで『冬真をストーカー』は続行された。
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