番外編 『 一緒にお風呂を入るのはいいが…… 』
【まえがき】
木曜日は休載日ですが、こういった番外編を上げていこうと思ってます。ない日もあります。
さてそんな訳で今話は晴と美月の混浴回……もとい葛藤回です。
――――――――――――
木曜日は晴にとって試練の日だ。
理由は至って単純で、翌日が金曜日――つまり週末だからだ。
週末もしくは土曜日は、夫婦暗黙の了解で〝アレ〟をすることになっている。アレ、とは夫婦の営みである。
彼女のことを慮って、夫婦の営みは週に一度だけ。
本音を言えばもっと回数を増やしたいが、色々と問題がある為我慢せざるを得ない。
なのに。
「晴さん。今日は一緒にお風呂入りましょう」
「……あぁ」
週末を前にこうして妻が可愛らしく強請ってくるから、晴も拒否できない。
以前はお風呂に入る時は必ず水着を着けていた妻も、最近はボディーラインを見られることに慣れたのかはたまた面倒になったのかは分からないが、バスタオル一枚巻いて入って来るようになった。流石に入ってしばらくは恥ずかしそうに頬を朱くするが。
「(……はぁ。無意識に密着させられると襲いたくなるんだが)」
お風呂に一緒に入る。まではいい。耐えられる。だが、問題なのは美月が浸かる時に身体を密着させてくるのだ。
色白く、柔らかな肌に生唾を飲み込まずにはいられない。
「ふぅ。やっぱり温かいのはいいですねぇ。夏の時はぬるま湯で問題はありませんでしたけど、寒くなってくるとこの温みには勝てませんね……はふぅ」
「……ソウデスネ」
「? なんで片言なんです?」
「気にすんな」
お前が無防備に密着してくるからだ、とはとても言えない。
ちらっ、と視線を下げれば柔らかそうな――否、とても柔らかい双丘が見える。
鼻孔を擽るシャンプーの匂いとうなじが非常に煽情的で、しかし我慢を強いられている晴にとっては脅威でしかなかった。
キスくらいは、と脳裏に過るも頭を振って必死に煩悩を振り払う。
「(なにこれ超もどかしい。今すぐベッドに運びてぇ)」
葛藤が絶えない。
以前は恋愛は疎か異性にすら興味がなかった人間が、たった一人の女の子に懐柔された挙句欲望に素直な人間と成り果ててしまった。
そんな夫の苦悩などつゆ知らず、美月はたおやかな笑みを向けてくる。
「一緒にお風呂入るのいいですね。節約にもなりますし、こうしてイチャイチャもできるし」
「……それは反則だっ」
「? 何が反則なんです?」
「お前、明日覚えてろよ?」
「本当になんで⁉」
訳が分からないと目を白黒させる美月に、晴は深い吐息をこぼした。
「(犬がご飯を前に尻尾をブンブン振る理由が分かった気がするな)」
晴が仮に犬だったら、待てと突き付けられた手に噛みつくかもしれない。
目の前にご馳走があるのに待たなければならないのは苦痛以外の何もないな、と苦笑をこぼしながら、晴は未だに困惑している美月の頭を撫でた。
「ふふ。本当に私の頭撫でるの好きですね」
「お前もされるの好きだろ」
「えぇ。ですので、存分に撫でてくれて結構ですよ」
嬉しそうにはにかむ美月。
その笑みが破壊力抜群で、さらに悶々とさせる。
「(あー。一日くらいする回数増やしても文句言われないかな。……いや、我慢だ)」
もしそれで子どもなんてできたら義母の華に殺される気がする。いや、あの人なら案外『やった! 初孫よ、初孫!』と喜んでくれる気がしなくもなさそうだ。
それでも、やはり一番大切なのは妻が元気でいることだから。
「(我慢。我慢……今日寝れっかな?)」
今日を耐えきれば、明日はお楽しみだ。
その為に執筆を頑張って。体力も温存しておく。
明日よ早く来い。そんなじれったさを覚えながら、晴は妻との混浴時間を過ごす。
「(あ、明日美月バイトだった)」
――どうやら、お楽しみはまだ先らしい。
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