第189話 『 文化祭というビッグイベントの準備の始まりです 』
二学年のビックイベントも無事に終わりを迎えたが、学校全体のビッグイベントはまだ終わってはいなかった。
「――そんな訳で文化祭の出し物決めろ。私は寝る」
相変わらず端的かつ淡泊、おまけに自由過ぎる担任にクラス全員が呆気に取られながらも、件の準備が始まった。
学生にとっては待ちに待ったビッグイベント。当然盛り上がりは最高潮に達して――
「あ、ちなみに騒がしくて私が起きたらその時点で文化祭の出し物は強制的に『学校の歴史展示店』にするからな」
「「……はーい」」
クラス全員。慄きながら返事した。
よろしい、と顎を引いて、担任は教卓に閉まっておいた寝袋を取り出すやいなや本当に寝てしまった。
そんな地雷を抱えつつ、美月たちは出し物を決めていく。とはいっても美月は実行員ではないので千鶴や可憐とほのぼのとしていた。
「やっぱ無難なのは模擬店だよね」
「他のクラスとの競争率も激しいけどね」
見れば早速、クラスの男子が『喫茶店』を提案していた。
古典的だな、と苦笑しながら美月は二人と会話を続ける。
「私はなんでもいいかな」
「そういえばみっちゃん、喫茶店でバイトしてなかったっけ?」
「してるよ。今度遊びに来てね」
「行く行く~。みっちゃんのウェイトレス姿可愛いんだろうなぁ」
「みっちゃんは料理もできるからな。模擬店になったらクラスから引っ張りだこだろうな」
「え~、それは嫌だなー」
それでは晴と文化祭デートができないではないか。
不服気に頬を膨らませれば、そんな美月を見て冬真が笑っていた。
「はは。そうだよね、美月さんはハルせ……」
「あー冬真くんほっぺに蚊がついてるよー!」
「はぶふっ⁉ ……あ、ありがと」
叩くのではなく押し付ける感じで口を塞げば、冬真は目を白黒させて美月は冷や汗を流す。手加減はしたので痛くはないのだろうが、女性にビンタされたという事実に衝撃を受けているようである。
「何今の?」
「気にしないで、蚊がいただけだから」
「でも……」
「千鶴?」
「うん。蚊がいました!」
凄まじい圧で友人の口を塞げば、可憐はぶるぶると身体を震わせていた。
これではヤンキーではないか、と心外に思いながらも美月は文化祭の話合いを再開させていく。
「二人は何やりたい?」
「私も特に希望はないかな」
「私は裏方であればなんでもいい」
美月と同じ意見の千鶴と、表に立つのが嫌いな可憐。
「可憐もウェイトレス服似合いそうだけど?」
「女子はあれ大抵似合うだろ」
「いやー。それはないよ可憐。少なくとも私は似合わない」
苦笑する千鶴に反論したのは、美月ではなくまさかの冬真だった。
「そうかな? 四季さんも十分似合うと思うけど……」
「――っ」
しれっと答えた冬真に、千鶴は数秒硬直すると一気にその頬を朱くさせた。
「うううるしゃい!」
「「……噛んだ」」
「二人も黙って!」
可愛いと呟けば、千鶴はたちまち顔を真っ赤にして叫ぶ。
赤い顔をパタパタと手を扇ぎながらうめく千鶴に、美月は目をぱちぱちと瞬かせる。
冬真が千鶴に対してそんな答えを告げるのは意外だったが、千鶴の反応がもっと予想外だった。
てっきり適当にあしらうと思ったが、こんな狼狽する千鶴は初めてみる。
「ぼ、僕なんか変なこと言ったかな?」
「……うーん。言ってはないけど、言ったような」
「どっちなのさ?」
心配になったのか美月に小声で訊ねてくる冬真。曖昧に返せば、彼は小首を傾げる。
この反応が誰かに似てるな、と思うと、そのどこかの誰かはすぐに見当がついて。
「冬真くん。今度晴さんと一緒に女性について勉強しようか」
「なんで⁉」
「貴方たちはもう少し女性に対して気遣いを覚える必要があります」
驚愕する冬真に、美月はやれやれと肩を落としながら言う。
美月の旦那もそうだが。金城も無意識に女性を口説く才能があるのだと理解すれば、千鶴に同情が湧いてきて。
「女性が喜びそうな言葉を平然と吐く男子高校生とよく一緒にいられるなぁ、ミケ先生は」
ここにはいない女性に感服するのだった。
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