第188話 『 なにこの神様的ポジション⁉ 』


「はい。唐突だが席替えしまーす」

「「いえーい‼」」

「五月蠅い。止めるぞ?」

「「……いえーい」」


 担任の一言で一気に盛り上がった美月のクラスだったが、鋭い眼光にクラス全員静まり返る。


「よろしい……じゃ私は資料作らないといけないから後は学級委員長に任せる」

「……なんて適当な」


 学級委員長を堂々とこき使う担任に美月は頬を引きつらせた。そしてみれば、この横暴ぶりも慣れてしまった学級委員長は「……またか」と肩を落としていた。


 大変だな学級委員長、と誰しもが彼らを同情しながらも、席替え自体は楽しみなのでクラスは盛り上がる。


 そんな中で一人、嫌そうな顔をしている生徒がいた。


「うえーん。みっちゃんと離れたくないよ~」

「あはは。私たち前後だからね」


 振り返った千鶴が泣いていて、美月は苦笑をこぼす。

 美月も仲が良い友達と近かったからこの席は気に入っていたのだが、それもここまでのようだ。


「ううっ。こうなったら学級委員長を買収しなきゃ」

「なんでよ」

「またみっちゃんの近くがいいからに決まってるじゃんっ」


 ぎゅっと抱きしめてくる千鶴。そんな光景を、美月たちとは席が離れている可憐が羨ましそうに見つめていた。


 ――『今度は一緒になろうな』


 力強く立てられた親指が、そんな事を言っているような気がした。


「せっかくなら三人近くがいいねー」

「だね。可憐、あそこの席退屈そうだったから早く席替えしたくてうずうずしてるんじゃない?」


 振り返った千鶴が「やっぱり」と察したように呟く。


 クラスが賑わっている間にも学級委員長二人がどう席替えするか思案していたらしく、そんな二人が手を叩くと一斉にクラスの視線が前に集まった。


「じゃ、席替えの方法はくじ引きにしまーす」

「「はーい」」

「「うぃーす」」


 男子と女子、それぞれ異論なく学級委員長の意見に同意する。


「じゃ、準備するからもう暫く待っててくれー」

「並び順は自分たちで決めてー」


 とは言ったものの、早いもの順が妥当だろう。


 クラスの雰囲気も美月の思案と同じなようで、あちらこちらから「早いもの順だよな」と声が聞こえてくる。


 また数分ほど経てば、


「はい、それじゃあ男子女子に別れて一人ずつ並んでクジを引いていってくれー」


 男子の学級委員長の言葉を合図に、ぞろぞろと皆が席を立っていく。


「私はみっちゃんの前に並ぼうっと」

「可憐は……すごい、先頭にいる」


 可憐の席替えに対する情熱がすごい。


 頬を引きつらせながら可憐がクジを引いている光景を眺めていると、彼女は黒板と紙に書かれた数字を見比べてガッツポーズしていた。


「可憐、どうやらいい席を引いたみたいだね」

「後ろの方かな」

「なら私たちも後ろの席を取らないとね」

「今の席位置も気に入ってるんだけどねぇ」

「真ん中って黒板見やすいもんね」


 可憐がどの席を勝ち取ったかは分からないが、美月としては今と同じく真ん中を引きたいところだ。千鶴の言う通り、板書が楽だから。


 そんなことを考えていると、おっとりとした目つきの女の子が美月と千鶴の方に近づいて来た。


「あ、可憐こっち来たぞ」

「――――」

「「無言で去って行った⁉」」


 髪を靡かせるだけでそのまま通り過ぎっていた可憐に二人は目を白黒させる。


 その間際に親指を立てていたので、おそらく待っているぞと伝えたかったのだろう。


「……これで私たちが前だったらアイツどうするんだ」

「あはは。泣くかもしれないねぇ」


 そんな悲惨な未来は避けないといけないので、美月と千鶴もこの席替えに少しだけ気合をみせた。


 そして回って来た美月と千鶴の番。


 まずは千鶴が取るのを見届けると、不思議とバクバクとしている心臓に促されるように美月も紙を取った。


「一緒に見よう。みっちゃん」

「……うん」


 そして、二人は深呼吸してから揃って紙を開いた。


 なんで席替え如きでこんなに緊張してるだろう、と不思議に思いながらも、美月はゆっくりと番号の書かれた紙を開いていく。


「私は【17】だ」

「うそマジ⁉ 私【16】なんだけど⁉」

 ということは、

「「私たちまた一緒だぁ!」」


 まさか今度も千鶴と席が前後一緒だとは思わず、二人は予想外の奇跡に手を握り合った。


 嬉しさのあまり飛び跳ねていると、その二人に猛然と向かって来るのはおっとりとした目つきの可憐だった。


 怖い怖い怖い! と千鶴と抱き合って身体を震わせていると――可憐が無言で二人に抱きついてきた。


 千鶴と揃って目を瞬かせれば、フフッ、と笑い声が聞こえてきて。


「お二人さん。仲良くしようや」

「……ということは」

「みっちゃんの隣、ワタシ」

「「かれーん‼」」

「二人とも~っ!」


 奇跡が重なって、なんと可憐までもが美月の近くの席だった。


 映画の感動のシーンさながらに熱い抱擁を交わす美月たち。そんな彼女たちをクラスメイトたちは「何やってんだ」という目で見ているが、今の三人は感動を分かち合っている最中なので気付かなかった。


「これからも私たちは一生の友だ」

「そうだなっ。みっちゃん、可憐。大好きだぞ」

「もう千鶴ったら。そんなの私たちも同じだよ」

「うおぉぉぉ。二人ともぉぉぉ」


 三人にとってはまさしく演劇。

 けれど他の人たちにとっては茶番劇で。


「おいそこの抱き合ってる仲良し女子高生三人組。席が決まったらさっさと移動しないさい」

「「はいっ」」


 と先生に叱られてしまったのだった。


 ▼△▼△▼▼



「よーし、それじゃあ全員席移動してくれー」

「「はーい」」


 学級委員長の号令で美月たちは荷物を持って移動を始めた。


「うふふ。またよろしくねみっちゃん」

「こちらこそ」


 千鶴と微笑みを交わして、ちらりと可憐の様子を窺えば彼女も上機嫌だった。

 クラス全員の大移動。向かう先は新しい席――


「あれ、まさか……」


 番号通りの席に着いて間もなく、美月は唖然とした。美月だけではない、千鶴と、そしてもう一人も、三人が目を瞬かせる。


 美月の眼前。千鶴の隣に立っていたのは、最近クラスで密かに実はモテ男なのではと噂されている――冬真だった。


「……もしかして、冬真くんの席って」

「四季さんの隣なんだけど」


 びっくりとしたまま答える冬真に、美月と千鶴は驚きのあまり硬直してしまった。

 こんな偶然ある? そう思っていると突然肩に重みを感じて。


「やーやー、これは楽しくなりそうですなぁ。な、影岸くん」

「影岸くんもいるの⁉」


 なんと可憐の隣は修学旅行でも同班だった影岸だった。


 ここまで来ると誰かの陰謀なのでは、と疑ってしまうが、不正もなければ計画的でもない事実に感動よりも恐怖が勝ってくる。


 なんにせよ、


「よろしくね、冬真くん」

「うん美月さん。それと四季さんも」

「……お、おう」


 運命の神様か、恋の神様の悪戯かは分からないが、一波乱ありそうな新たな席順。

 これは晴に報告しようと、美月は乙女心にラブコメの波動を感じながらにやにやするのだった。


「(なにこの神様的ポジション⁉)」


 

 ――――――――――

【あとがき】

ということで席替え回でした。この席位置は一波乱も二波乱もありそうかも??


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