第184話 『 今日は一緒に昼寝できなくてすまんな 』
「けほけほ」
『にゃぁ』
「心配してくれてありがとな、エクレア」
美月が学校へ登校したあと、晴はリビングでぐったりしていた。
だるい。
「頭痛ぇ」
時間経過と共に頭痛が強まっていく気がする。
頭痛なんて珍しくもないが、最近は目立った不調が起きなかったせいか余計に苦しく感じた。
きちんと体調管理はしていたはずだが、やはり人生とは何が起こるか分からないものである。
「とりあえず、ベッドに行くか」
だるい身体を起こせば、エクレアも心配そうに鳴きながらついて来る。
冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して、ふらふらと足元もおぼつかないまま晴は自部屋に向かった。
「……なんか寒気もしてきたな」
季節の影響、というよりこれは身体の異常だろう。
ぶるっ、と身体が震えて、本格的にマズくなったと流石の晴も悟る。
執筆したいが、この状態では手がつくはずもない。
美月の言う通り安静にしよう、とベッドの中に潜れば、いつもは心地よく感じる布団の温もりも今は何も感じられなかった。
「あー、くらくらするぅぅ」
横になったからか、身体が一気に脱力すると同時に眩暈も起こり始める。
視界がぐるぐると回っている。
「……うぷ。気持ちわる」
吐き気もしてきた。
『にゃぁぁ』
「大丈夫だエクレア。俺のプライドにかけて吐く時はトイレでするから」
床やベッドにぶちまける、なんて事態は死んでも避けたい。
たぶん吐くだろうな、と確信しながらも、晴を案じてくれている猫には強がってみせた。
「ほら、お前にも風邪移すかもしれないから、部屋を出てくれ」
『にゃぁ』
「今日は一緒に昼寝できなくてすまんな」
『にゃぁ』
エクレアが何を言ってるかは分からない。けれど、気にしないでと言っている気がした。
優しい子だ、と弱った微笑をこぼしながら、晴はエクレアに部屋から出て行くよう促す。
下がった尻尾と憂いをはらむ金色の瞳が名残惜しそうに去っていくのを見届けて、晴は重い息を吐く。
「寝れば治る。……けど、どうやったら眠れるんだ?」
不思議なもので、寝ようと思えば思う程人は寝付けない。
身体は相変わらず怠いし、きっと熱も上がっている。薬は飲んだが、効き目を感じることはなかった。
寝よう。そう思ってもこういう時に作家の癖が出てしまう。
脳が勝手に余計な思考を初めて、睡眠を妨害してくる。
小説のことや日々のこと。美月との会話や数年会っていない家族のこと――思考がごちゃごちゃになって、眠れなかった。
「こういう時、いつも何してたっけ」
荒い息を繰り返しながら思い出してみる。でも、うまく思い出せなかった。
次第に考えるのも苦しくなって、苛立ちも覚え始めた。
その数秒後に、心細くなる。
泣きたくなってしまう程に胸が苦しくなって、そして焦がれる。
――そうだ。昔は、こういう時に誰かに傍に居て欲しいと思ってたんだ。
「……美月」
脳裏に思い浮かんだ少女の名前を呟いて――晴の意識は途絶えた。
―――――――――
【あとがき】
今日は作者の話を。
先日部署が変わり、また慌ただしい日々が始まりました。
ということで更新減るかもww
もしかしたら更新増えるかもww
まぁ、気長に完結目指して更新していくますので、今後もゆのや劇場にお付き合いください。
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