第172話 『 冬真くんみたいな男子タイプだっけ 』


 夜。ホテル大浴場にて。


「いやぁ、今日はすまんね二人とも」

「全然気にしてないぞぉ」


 美月たち女子三人。仲良く湯船に浸かっていると、唐突に千鶴が両手を合わせて謝ってきた。


 おっとりした声音でそう言う可憐に美月も同感と頷く。


「私も。でも意外だったな。千鶴がまさか冬真くんと二人きりで話をしたい、なんて言い出したのは」

「あはは。本人はあれが仕組まれてたとは分からなかったみたいだけどね」

「冬真くんは純粋だから」

「な。あれで私たちと同じ高二とか信じられないわ」


 千鶴と互いに苦笑を交える。


 冬真は優しい性格で、おまけに人を疑うことを知らない純粋過ぎる子だ。


 彼はきっと自身の不注意で迷子になってしまったと思っているが、実は、あれは千鶴が仕掛けた計画的なものだった。


 理由は先の通り、千鶴が冬真と二人きりで話をしたかったから。


「それで、二人で何を話したの?」

「んー? それを言ったら意味ないじゃん」


 言われてみればそうなのだが、でも気にはなるもので。


「親友に隠しごとはなしだぞ~」

「そうだそうだー」


 可憐の言葉に便乗するも、


「だーめ。いくら親友でも教えられませーん」


 と千鶴は一顧だにしなかった。


 まぁ、親友がそこまで言いたくないのなら無理矢理聞く、なんて真似はしないけれど。


「冬真くんと少しは仲良くなれた?」


 これくらいは聞いてもいいだろう、と思い千鶴へ尋ねれば、彼女はこくりと頷いた。


「うん。見た目通りネガティブ思考だったけど、でも悪い奴じゃなかったよ。あと、意外と面白い奴だった」

「ほほぉ。お二人さん。たった数時間でそこまで打ち解けたのか」

「変な妄想はやめろよ可憐~。打ち解けたといっても全然だぞ」

「でも、千鶴は楽しそうだよ」

「――ぇ」


 不敵な笑みを浮かべながら可憐が指摘すれば、千鶴は目を丸くする。


「……そ、そうかな」

「「あれれ~。千鶴なにその反応」」


 千鶴がわずかに照れをみせれば、美月と可憐はニヤニヤと口角を上げる。


 意外な反応を見せた千鶴は、まるで逃げるようにバシャバシャと水音を立てながら距離を取ると、


「二人とも変な妄想禁止! べつに金城とは何もないから!」

「私たちはまだ何も言ってないが」

「というか千鶴。冬真くんみたいな男子タイプだっけ?」

「……好みといえば真逆だな」


 千鶴は頼り甲斐がある男性が好きなので、その点で言えば冬真は該当しない。


 まぁ、冬真も時々頼りになる発言や言動を起こすが、基本それは敬愛すべきミケ先生の時にしか発揮されないのでやはり千鶴のお眼鏡にかなうことはなさそうだ。


「あぁでも、優しくはあるよね」

「たしかに。金城は優しい。でもやっぱなよなよしてない?」

「可憐はおっとりし過ぎかな」

「マイペースと言ってほしいね」


 キラリと白い歯を魅せる可憐に、美月は何も言い返せず「あはは」と苦笑。

 そんな談笑を交わしていると、距離を取っていた千鶴がのそのそと戻って来る。


「……なんか二人とも、私と金城をくっつけさせようとしてない」

「してないよ。――というか冬真くん。既に好きな人? かは分からないけど、夢中な人いるからねぇ」


 それを言った瞬間だった。


 頭の中で『あれ、これ言ってよかったのかな』と疑問が生じた。


 ただ、既に口から出てしまった後。そして、当然そういう話が大好物な女子たちは食いついてきて。


「みっちゃん。その話詳しく!」

「えぇ、でもそろそろお風呂の時間終わるし」

「なら部屋に戻ってからすればいい。今夜は女子会や」

「……私ちょっと電話したい相手がいるな~」

「カレシさんとの電話の後でいいよぉ」

「ちょっとカレシって決めつけないでくれるかな⁉」

「「逆にそれ以外誰がいるの?」」

「そうだけど! そうだけど!」


 小首を傾げる千鶴と可憐に、美月は顔を真っ赤にして湯船を叩く。千鶴も分かりやすいが、美月はもっと分かりやすかった。特に晴が関わると。


「あ、どうせならみっちゃんとカレシがどこまで進んだか聞こうぜ!」

「ナイスアイディア千鶴。今夜は盛り上がりそうですなぁ」

「え⁉ 冬真くんの気になる人の話しようよ⁉」


 躊躇いもなく友人を裏切るも、千鶴と可憐は悪い笑みを浮かべていて。


「勿論それも聞くつもりさ」

「今夜はぱーちぃですな千鶴殿」

「そうですな可憐殿」

「……あの、私の意見は」

「「やっぱ修学旅行は楽しいな!」」

「全然話聞いてない⁉」


 そんな訳で今夜は女子会が開かれる事となり、美月は眠れない夜を過ごすことになるのだった。

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