第169話 『 少しだけ、私とのお喋りに付き合ってもらうぜ 』

【まえがき】

 なんと本作がついにカクヨム単独、総合PV10万を突破しました。それを記念したお話は特に用意してません。すんません。

―――――――――――――――



「やば。皆とはぐれちゃった」


きょろきょろと周囲を見渡せば、冬真はいつの間にか一人ぼっちになっていることに気が付いた。

 こういう所はもう少ししっかりしなきゃな、とため息をこぼしながら、スマホをポケットから取り出す。

 高校生ながら迷子になってしまった事を班員に報告をしようとした、その時だった。


「……金城」

「四季さん!」


 同じ班員である四季千鶴と奇跡的にも見つけてもらい、心細かった胸に安堵が広がった。

 みっともなく目尻に浮かんだ涙を拭いながら小走りで千鶴の下へ寄ると、


「良かった。危うく皆に迷子になったことを報告しなきゃいけないところだったよ」

「うん。私に言った時点で既に迷子だった事がバレたけどな」

「しまった⁉」


 うっかり失言してしまい、羞恥心で赤く染まった顔を掌で覆う。そんな冬真に千鶴は呆れた風に嘆息した。


「相変わらずなよなよしてんなぁ、金城は」

「あはは。根暗陰キャ野郎だから」

「自分で認めるのもどうかと思うけどな……」


 素直に肯定すれば千鶴に引かれた。

 一歩距離を置く千鶴に、冬真は話を切り替えるようにコホン、と咳払いすると、


「そ、それじゃ早く美月さんたちのとこに行こうか」


 同じ班とはいえ、やはりまだ千鶴に慣れない冬真は慌てるように歩き出す。

 それはまるで怯える小動物のようで――そんな冬真の首根っこを千鶴が捕まえた。


「まーそんな慌てんなって。ゆっくり話しながら行こうぜ」

「うげぇぇ⁉」

「あごめん」


 ブレーキが効かず襟が喉が押し込まれて、堪らず呻き声がもれる。

 ケホケホッ、と咳き込みながら冬真は精一杯の笑みを浮かべると、


「う、ううん。勝手に動こうとして止まれなかった僕が悪いから」

「……優しい奴だな」

「何か言った?」

「いや、変な奴だと思って」

「今のやりとりでどうしてそう思われたの⁉」


 理不尽な評価に嘆けば、千鶴はけらけらと笑いながら「気にすんな」と言った。

 冬真としては気になって仕方がないのだが、あまり執拗に追及しても返って怒られるだけだと悟って不満を飲み込む。

 やっぱり女子は苦手だ、とため息をこぼれると、そんな様子を千鶴はつまらなさそうに見つめていた。


「お前はよく溜め息吐くな。そんなんじゃ人生つまんないぜ?」

「実際僕の人生は面白くなかったよ」

「ネガティブだなぁ」


 元気出せよ、と背中を叩かれたが、結構な威力だったので堪らず「うっ⁉」と呻き声がこぼれた。


「ケホケホッ……あ、あの。四季さん。そろそろ皆のところに向かおうよ」

「おっとそうだったな。ま、連絡は入れてあるからみっちゃんたちもそこまで心配はしないだろ」


 だから、と千鶴は口角を上げて。


「少しだけ、私とのお喋りに付き合ってもらうぜ」


 ニヤッ、と不敵な笑みを浮かべる千鶴は、冬真は頬を引きつらせる。

 その言葉に何か裏があるような気がしたのはきっと間違いではないのだと、冬真は瞬時に悟って、千鶴との距離を開けながら呟く。


「か、カツアゲだけは勘弁してください」

「なんでだよ⁉ 私はヤンキーじゃないわっ」

「ひぃぃぃ⁉ ごめんなさい⁉ ……やっぱ怖いよ女子って⁉」

「ほら行くぞ!」

「あちょ⁉ ちょっとそんな乱暴に引っ張らないでよ四季さん⁉」


 小動物のように怯えながら、友達の友達と暫く行動を共にすることになってしまった。


――――――――――――

【あとがき】

修学旅行編が終わったら少し休載すると言いましたが、全然終わる気配がありません。あと7話くらいありますが、それが終わったら改稿作業に追われる日々が来ます。更新はしないは執筆しているので結局のところ休みはありませんが、本作を少しでも読者の皆様に楽しんでいただけるよう頑張って更新&改稿していきます。

さて次回からお話は冬真と千鶴がメインの話になります。二人きりで水族館。何も起きないはずはなく……?

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