第168話 『 私としてはまだ満足してもらえないと思うんだけど 』


「なーに観てるの、みっちゃん」

「わっ。びっくりした」


 お土産売り場にてとある物を見つめていると、不意に後ろから抱きつかれた。


 驚きつつ振り返れば、抱きついて来た相手は興味津々といった顔をしている千鶴で。


「ストラップ?」

「うん。お土産に」

「ほーん。その相手はカレシさんかな?」

「うん」


 正確には旦那なのだが、千鶴にはまだこの事実は秘密にしているので美月は複雑な心境ながらも肯定した。


「あげるなら何がいいかな、と思って」

「みっちゃんからプレゼントを貰えるなんてカレシさんが羨ましい限りですなぁ」

「あはは。だといいけどね」


 先月に誕生日プレゼントとして化粧ポーチをもらったので、美月としても晴へのお土産は俄然気合が入っていた。


「まぁ、あの人がストラップを贈って喜ぶかは微妙かな」


 普段からあまり飾らない男なので、こういう物を贈っても晴がどんな反応をするかは分からなかった。


 少しだけ不安で語調が低くなれば、千鶴は「何言ってんの」と背中を叩いて、


「みっちゃんが一生懸命選んだ物なんだから、絶対喜んでくれるって!」

「そっかそうだよね」


 親友から楽しい激励を受け取れば、自然と胸に安堵が広がった。

 それから自身も湧いていけば、美月は再び晴へのお土産選びに奮闘しようとして……、


「時にみっちゃん。アナタの手に持ってるのは何だい?」


 神妙な顔をしながら問いかけてくる千鶴に、美月はしれっと答えた。


「全部プレゼントだけど……」


 ごく当たり前のように答えれば、途端千鶴は目をカッと見開いて、


「いや多いよ⁉ なんでそんな両手にいっぱい持っててまだプレゼント選ぼうとしてるのさ⁉」

「え? これだけで足りる? 私としてはまだ満足してもらえないと思うんだけど」


 不安そうに呟きながらも、美月の両手には千鶴が言った通りストラップや小型のぬいぐるみがいっぱいに盛られていた。


 小首を傾げていれば、そんな美月を呆れるように千鶴は肩を落として、


「……なんかみっちゃん。カレシさんと付き合ってから性格変わってない?」

「特段変わった覚えはないけど」


 晴の前では甘えたがりになっている事は自覚しているが、人前では普段通りのはず。


 千鶴の言葉に眉尻を下げれば、しかし千鶴は「いやいや」と手を横に振った。


「みっちゃん。昔はカレシにプレゼントとかしなかったじゃん」

「贈ってはいたよ。でもいつも反応が微妙だったから」

「たぶんそれ、みっちゃんからプレゼントを貰った嬉しさに打ちひしがれただけだと思うけど」

「だったらそれを言葉か愛情で示してもらわないと」


 少なくとも晴は言葉こそ淡泊だが、いつも行動で示してくれる。というか、行動が愛情たっぷり過ぎて美月がパンクしてしまうくらいだ。


 だからか、晴には同じくらい行動で自分の愛情を示したくなってしまう。だから、きっとこの両手いっぱいに盛られたプレゼントはその証なのだろう。愛してくれてありがとう、というお礼。


「カレシさん。よくみっちゃんの愛情受け止め切れるね」

「ふふ。器が大きい人だから」


 来るもの拒まず去るもの拒まず、なのが晴だ。本人は大抵のことはどうでいいから受け流しているらしいが。


 それに、彼は恋人いない歴=人生だった男なので、その空白の時間、人を甘えさせるスペースが空いているのかもしれない。


 それは美月が全部埋め尽くすとして、


「千鶴はどれがいいと思う? このジンベエザメのぷちぬいぐるみかマンタか」


 今は彼へのプレゼント選びが最優先だ。


「……もう両方買えばいいんじゃない」

「それもそうだね」

「嘘嘘⁉ ちゃんと選ぼうか⁉ ……はぁ、みっちゃん。カレシさんのことになると見境ないな。これは今夜どこまで仲良いのか聞かないと」

「何か言った?」


 何か不穏な単語が聞こえた気がして眉根を寄せれば、けれど千鶴はふるふると首を横に振った。


「ううん。あそうだ。プレゼント選びに協力するのはいいけど、みっちゃんもちょっと私に協力してくんない?」

「……それは構わないけど」


 ぎこちなくこくりと頷けば、千鶴はそれ以上は言わずにストラップを眺め始めた。


 何に協力するんだろう、と思惟しながらも、美月は晴へのプレゼントを友達と共に選ぶのだった。

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