第163話 『 ミケ先生にもそう思われてたら死ねるな 』


「うああ。なんでこんなことにぃぃぃ」

「あはは。仕方ないないよ」


 沖縄へと向かう、そのフライト中。隣で頭を抱えているのは友達の冬真だった。

 なぜ彼が絶望しているのかというと――それは席が美月の隣だったからである。


「というか私に対して失礼じゃないかな、その反応」

「美月さんは悪くないよ。悪いのは全部運が悪い僕のせいなんだ!」


 若干の苛立ちを覚えつつ言えば、冬真は顔を真っ青にしながら小声でうめく。

 彼がどうして、美月の隣で絶望してるのかと言うと、


「うあぁ、クラスの男子の視線が痛い」

「気にしたってしょうがないでしょ」


 これは本当に不慮の事故なのだが、余り物が故に美月と席が隣になってしまった冬真を、どうやらクラスの男子は嫉妬しているらしい。

 真っ青にした顔で今度はお腹を押さえる冬真を嘲るように、前の方からケラケラと笑い声が聞こえた。


「良かったじゃんか金城くん。クラスのマドンナと相席になれて」


 誰がマドンナだ、と千鶴にツッコもうとしたものの、それより先に冬真が叫んだ。


「良くないよ千鶴さん⁉ おかげ僕、今男子全員に嫉妬されてるんだけど⁉」

「んなこと気にしてたら負けよ。それに、みっちゃんは既にカレシいるんだぜ?」

「……それは知ってるけど」


 弱々しく答えた冬真に、千鶴が意外だと目を瞬かせる。


「金城、みっちゃんにカレシがいること知ってたんか」

「「ぎくぅぅ⁉」」


 うっかり失言してしまってせいで、冬真と美月はビクッと肩を震わせた。


「そ、そうなんだよねー。冬真くんにも教えたんだー」

「う、うん! 好きすぎて困ってるんだどうしようっていつも耳にタコができるまで聞いてるよ……いっだあ⁉」

「誰もそこまで言ってない!」


 失言ついでに捏造までする冬真の足を思いっ切り踏めば、彼は目尻に涙を浮かべながら絶叫した。

 そんな美月と冬真のやり取りに、千鶴はお腹を抱えて笑っていて。


「あはは! 二人ともいつの間にそんな仲良くなったのさ」

「「ま、まぁ……色々とご縁がありまして」」

「ご縁?」


 ぎこちなく答えれば千鶴が眉根を寄せた。


「そういえば、二人とも名前で呼び合うようになったんだねぇ」


 そんな千鶴の脇から顔をひょっこり覗かせたのは可憐で、おっとりした目から鋭い指摘が飛んできた。


「あ、あはは。……友達だから当然でしょ?」

「でもみっちゃん。男嫌いでしょ?」

「嫌いじゃないよ。ちょっと苦手なだけだよ」


 たしかに苦手意識はあるが、最近は克服しつつある。それも晴のおかげだし、彼の友人である慎やサトルが良い人たちなのも理由の一つだ。

 それに、


「冬真くんはなんというか、弟みたいだから」

「なるほど。言われてみればたしかに、同級生というより年下に見えるわな。中三くらいの」

「分かる~」


 そう説明すれば、千鶴と花蓮も納得と頷いた。

 これで追及は潜り抜けられたか、と安堵もつかの間、隣から何やら重いため息が聞こえて。


「ははっ。僕そんなに男性としての魅力ないかなぁ」


 冬真が死んだ顔をしていた。


「ち、ちが……今のは言葉の綾というか言い間違いというかっ」

「いいんだよ美月さん。所詮、僕は日陰の隅で大好きなアニメやラノベを鑑賞している根暗陰キャ眼鏡やろうだから」

「そこまで自分を卑下しなくてもいいんじゃない⁉」

「あははっ……ミケ先生にもそう思われてたら死ねるね」

「死んじゃダメだから⁉」


 仏のような顔で悟りを開く友達を、美月は必死に宥めて、千鶴と花蓮はお腹を抱えて笑っていた。

 約三時間のフライトの旅は、かくして友達を励ますところから始まったのだった。


―――――――

【あとがき】

皆修学旅行どこだった? ちなみにワイは沖縄や。

本作は修学旅行の舞台を沖縄にしつつも作者は既に記憶が殆どありません。まだ六年くらい前の話なのにね。海が綺麗だったことしか覚えてねえや。あ、あと泳いだよ!

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