第155話 『 私の言う通りにしないとお仕置きですよ? 』


「――んんっ……ぷはっ。こら、逃げちゃダメですよ、晴さん」

「いやいや、逃げるだろ。そんなガッツくな」


 美月の誕生日のその夜。二人は同じベッドにいた。


「言ったでしょう。今夜は私が上になるって」

「たしかに言われたが、いくらなんでもお前が……」

「む。今週は〝お前〟じゃなくて〝美月〟って呼ぶ約束でしょう」


 ジト目を向けてくる美月に、晴はコホン、と咳払いして言い直した。


「美月がずっと上なのは、俺としても情けないというか、年上としての威厳が保てない気がする」

「いつも私にお世話されてる人が今更何を言うんですか」

「……うぐ」


 正論過ぎて何も言い返せない。


 バツが悪くなって視線を逸らせば、美月は小悪魔めいた笑みを浮かべると両手で頬を捕まえた。


「逃がしませんよ――んっ」

「――っ。んんっ」


 怪しく舌を舐めれば、美月はそのまま晴の唇を奪う。その妖艶さにゴクリと喉が鳴るも、喉を通らんとした唾液はその前に美月が絡め取ってしまった。


「ちゅうっ――んんっ。はぁむ」


 お互いの熱を貪らんとするように舌を絡ませて、晴と美月は深いキスに溺れていく。


 たっぷり数秒をかけて唇が離れれば、晴は少しだけ息を荒くしながら言った。


「今日は、いつもより激しいな」

「はぁはぁ。いつも私が貴方にいいようにされてるから、上になって興奮してるのかもしれません」


 肩で息を吐く美月が、晴の言葉を素直に肯定してくる。肌に触れる甘い感触が、晴の欲望を一層駆り立てる。


 けれど、今夜は美月が晴の上に跨っているから、押し倒したくてもできなかった。


 そんな二律背反に歯噛みしていると、美月はふふ、と微笑みを浮かべた。


「なんかいいですね、これ」

「何がだよ」

年下わたしなんかに弄ばれてる年上あなたを見ていると、いつもより気分が昂る気がします」

「変な才能を開花させないで欲しいがな……」


 意外と攻めるのも好きかも、と美月が妖艶な笑みを深める。


 ちょっぴり美月のSな気質が開花した瞬間を目の当たりにして苦笑すれば、晴はそんな小悪魔にキスをしようと――


「ダメ。今日はずっと私からするんです」

「いいだろキスくらい」


 お預けをくらって不服気に眉を寄せれば、美月は晴の唇に指を押し当てる。


「私の言う通りにしないとお仕置きですよ?」

「ふーん。そのお仕置きとやらの内容は?」

「まさか晴さん、そっちの趣味が⁉ ……あてっ」

「な訳あるか」


 美月が変な想像を膨らませようとしたので、晴は白いおでこに手刀を入れた。

 晴に特殊性癖はないが、


「内容次第では強行しようと思って」

「なんて非道な……ならお仕置きは厳しくしないといけませんね」


 晴の強情ぶりに頬を引きつらせれば、美月はふむ、と顎に手を置いて思案する。

 数秒後、美月は何やら不敵な笑みを浮かべて。


「なら、イきたくてもイけないように管理してあげましょうかね」

「どこで覚えてくるんだその言葉」


 にやにやと邪推な笑みを浮かべる美月にジト目を向ければ、彼女は顔を赤くしながら「な、内緒です」とそっぽを向いた。


 出会った頃は純粋そうな美月だったが、今ではすっかりエッチな子になってしまったな、と苦笑がこぼれる。


「こっちの方も勉強熱心とは恐れ入るよ」

「貴方を悦ばせたいですから」

「いつも満足してる」

「でも年月が経つごとに少しずつ熱が冷めていって、そのままレス化してしまう、なんてよく聞くじゃないですか」

「その時はその時だろ」


 僅かに不安そうに声音を落とす美月に、晴は心配は無用だと豊満な胸に顔を埋めた。


「こんな立派な胸だ。俺を何十年も虜にさせるだけの魅力は十分ある」

「むぅ。胸だけじゃなくて私自身に虜になって欲しいんですけど」

「安心しろ。それなら既に虜になってるから」

「ふふ。嬉しいことを言ってくれますね」


 視線だけ上げてそう答えれば、美月は満足げに頬を緩ませる。

 美月が未来に危惧しているのも分かるが、晴としては今のところその心配はない。


「それに体の相性もいいからな。レスになる心配は杞憂だろ」

「体の相性がいい、というより、貴方が私の反応を見るのが得意なだけでは?」

「得意というか、美月の反応が過剰なだけだろ」

「そ、そんなことはないですっ」


 顔を赤くして視線を逸らすのがもはや答えだ。


 まぁ、美月の言う通り晴も反応を見て攻めていること事体は否定しないが、やはり互いに気持ちいいと感じられるのは偏に体の相性がいいからだろう。


 それに。


「やっぱり今日は特別興奮してるみたいだな。もう濡れてる」

「やっ……急に触っちゃ、ダメ」


 予備動作なしに美月の秘部に触れれば、艶やかな嬌声がもれる。


 ダメ、と止められたがお構いなしに指で美月の大切な場所を撫でれば、指先に伝わってくるのは彼女の体の温かさで。


「晴さん……私、もう……」

「分かってる。でも、今日はこの体勢でするんだろ」

「はい。このまま、しちゃいます」


 我慢し切れない、そんな風に荒い吐息を繰り返す美月。そんな妻に、晴の方も準備万端と頷く。


 やはり、何度体を交えても、この衝動には慣れない。


 体が訴えるように、心拍数を上げて美月を求める。


「今日は、美月が上になってくれるんだろ?」

「えぇ。でも、絶対に途中で腰抜かしちゃいそうです」

「ならその時は俺が気持ちよくしてやる」

「むぅ。イジワルな人」


 不敵な笑みを浮かべれば、美月は拗ねた風に頬を膨らませた。

 それから、美月は膨らんだ頬をしぼませると、晴に言う。


「そろそろ、しましょうか」

「そうだな。俺からすればいいか?」


 そう聞けば、美月はふるふると首を横に振る。

 どうやら、今日は本当に終始美月がリードするらしい。

 なら晴も何もせず、ただ美月の望みに応じるだけだった。

 呼吸を整える美月が、ゆっくりと腰を上げていく。そして、


「――んんっ!」


 腰が降りて、その最中に大きな嬌声がもれる。晴も下半身に強烈な快感を覚えるも、抗うように奥歯を噛みしめた。


 やがて、二人は一つに繋がって――揺れる紫紺の瞳が真っ直ぐに晴を見つめてくる。


「今日は素敵な誕生日をくれてありがとうございます、貴方。――でも、今からもっと愛してください。それが、私にとっての最高の誕生日プレゼントです」

「勿論だ」


 溢れる想いを告げる美月に、晴は淡泊だけれどたしかな想いを込めて応えた。



―――――――――

【あとがき】

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