第118話 『 縁日デート。満喫しましょうね 』


「あら、本当に来た」

「来ないアホがいるか」


 美月からとある連絡を受けた晴は、執筆を中断して縁日に足を運んだ。

 後頭部を掻きながら美月の元まで寄って、晴は「お疲れ」とまずは労う。


「金城くん、上手く誘えたか?」

「はい。中々手強かったですけど、最後はミケさんの家政婦……じゃなかった。アシストになってくれました」

「なら良かったな」


 ぽん、と頭に手を置けば、美月は嬉しそうに口許を緩めた。

 そんな彼女を横目に、晴は「それで」と前置きすると、


「なんで縁日が開いてるなんて知ってたんだ?」

「ミケさんが教えてくれたんです。今日は近くで縁日やってるから、貴方を誘って行ったらどうか、って」

「金城くんを勧誘したお礼ってことか」

「そうですね。こんな耳寄りな情報を教えてくれただけでも、昨日の大掃除と金城くんを必死に説得した甲斐があります」

「お釣りには足りないと思うが……それは俺が払っておくか」


 美月の功績を鑑みれば、縁日が催されているなんて情報だけでは足りないだろう。その補填は旦那である晴がするとして、


「そんな耳寄りな情報をくれた本人はどこにいるんだ?」

「今は金城くんに自宅の案内とアシスタント内容を教えてます。時間があれば二人で来るそうですよ」

「ほーん。それは金城くんが喜びそうだ」


 黒猫のミケガチ勢の金城くんだ。二人きりで縁日、なんて鼻血が出る程の至福だろう。

 まぁ、本人としてはミケのアシスタントに就任した事が最上の至福だろうが。


「これでミケさんの生活が少しでもマシになるといいんだが」

「大丈夫。金城くんがそこはしっかり管理してくれるはずです」

「お前みたいにか?」

「ふふ。そうですね。私みたいに」


 挑発的な視線を送って問えば、美月がはにかみながら答えた。

 なんだか身の回りで年上が年下にお世話される構図が多い気がするも、ひとまずは美月と縁日デートを楽しもうと手を握った。

 その手を握り返した美月と、話を続けながら屋台の方へ向かって行く。


「それで、貴方は、今日は家で何してたんですか?」

「執筆してた」

「相変わらずですね。もう少し家から出たがらない性格を直すべきでは?」

「今こうして外に出てるだろ」

「夜じゃなくて日中ですよ」

「夏以外だったら普通に出れる。でも夏は無理」

「本当に夏が嫌いですね貴方は。まぁ、納得はできますけど」


 ならそれで手打ちにしてくれ、と晴はバツが悪そうに言った。

 このうだるような暑さはやはり慣れない。今だって、夜なのに蒸し暑い。


「かき氷食いてぇ」

「えぇ。まだ早いですよ」


 帰りに食べましょ、と言う美月。

 そんな美月に、晴は一瞥して返した。


「お前疲れてんだろ。今日くらい晩御飯の用意するのサボれ」

「じゃあ晩御飯どうするんですか?」

「屋台で適当に買って、家に帰ったら食べればいいだろ」

「妙案ですね」


 と美月が首肯した。


「それじゃあ、美味しいもの沢山買って帰りましょう」

「だな。ま、お前の料理が一番美味いけどな」

「ふふ。嬉しいこと言ってくれますね」


 いつもなら照れて顔を赤くする美月だが、今日は口許を緩めるだけだった。


「お前も耐性がついてきたか」

「なんのですか?」

「俺の誉め言葉にキュンとしなくなる耐性」


 そう言えば、美月はふふ、と微笑みを浮かべて、


「いいえ。耐性なんかつきませよ。私はいつも、貴方の言葉に胸が弾むばかりです」

「その割には顔に出てないぞ」

「誰かに似たのかもしれませんねぇ」


 その誰かとは、もはや言うまでもない。


「なら、代わりに行動で証明してくれ」

「いいですよ。今から、貴方といる時間が愛しいという証明をします」


 そう言い切った美月は、晴の腕に抱きついてきた。

 ふふ、と微笑みを浮かべる美月は、なんとも美しくて――


「縁日デート。満喫しましょうね――貴方」

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