第113話 『 揶揄うと思います? 』
夏休みといえど、美月にはバイトがある。
「あれ、どうしたんですか晴さん」
「たまにはいいだろ」
chiffonの前で待っていると、美月が珍しい、と言いたげな視線を送って来た。
先月から美月の迎えはなくなった晴だが、前述通りたまには迎えに来てもいいかなと思った。
ぶっきらぼうに言った晴に、美月はにやにやと意地悪な笑みを浮かべた。
「まさか、私に早く会いたくて迎えに来ちゃったんですか」
「それも一理ある」
「まさか肯定されるとは思いませんでした⁉」
素直になれば驚かれて、たまらず不服になる。
「なんでそんな驚く」
「そりゃ驚きますよ。だって貴方の口から私に会いたい、なんて言うんですから」
「べつに言ってはないが」
「一理あると言ったでしょう。同義ですよ」
そうかな、と小首を傾げれば、美月はそうです、と強く肯定させてきた。
「理由はなんでもいい。さっさと帰るぞ」
「そうですね。夜も遅いですし」
美月は晴の言葉に嬉しそうにしているが、晴本人は至って平常なのでとりあえず美月の手を握って歩き出す。
「手も繋いじゃって……これは余程寂しかったと伺えます」
「こっちの方が男除けになるだろ」
一理あります、と美月が微笑んだ。
「それで晴さん、迎えに来た本当の理由はなんです?」
眉尻を下げた美月が聞いてきて、晴はそれに一瞥して言った。
「ジョギングついでだ」
「なるほど運動ですか……運動⁉」
「おい、どんだけ驚くんだ」
「当然でしょう。あの家から出たがりな貴方が運動だなんて……明日は台風かな」
な訳あるか、とツコッミつつ晴は口を尖らせた。
「俺だって運動したくてしてるんじゃない」
「ならどうして運動なんてしてるんです?」
「お前の美味いメシを食う為だ」
晴の言葉に困惑する美月。
そんな美月に視線だけくれると、晴は淡々と答えた。
「お前のメシは誇張抜きに美味い。ただ、それを何も気にせずバクバク食べると太るという欠陥に気付いた」
「なるほど。だから運動してるんですね。太らないように」
そう言って、美月は晴のお腹を抓んできた。
「……と言う割には太ってないですよね」
「筋トレしてるしな」
「いつ?」
私知りませんけど、と美月が視線で訴えてきた。
「お前に隠れてやってる」
「言ってくれれば一緒にやるのに」
「なんか揶揄われそうだったから言わんかった」
「揶揄うと思いますか?」
「そういう目をしてる奴が言うな」
真面目な声音とは対照的に、美月の口はニヤニヤと邪悪に歪んでいた。
とりあえず白い額にデコピンを食らわせつつ、晴は一拍吐いて、
「お前だって旦那の腹がぷよぷよだったら嫌だろ」
「私はなんとも思いませんよ。むしろ嬉しいくらいです」
「なんで嬉しいのか気になるけど、聞かないでおくか……」
なんか少しいけないものを垣間見た気がした。
以前、華が「娘がヤバイ方向に成長してる」と言った意味が分かって気がして、晴は妻の闇に触れないように話を進めた。
「お前がどう思っていようが、俺が嫌なんだ。なんかこう……おっさんになった気分になる」
「理由はなんであれ、健康でいようと思うのは殊勝な心掛けですね」
美月が嬉しそうにはにかむ。
それから美月は「たしかに」と指を口にあてると、
「最近、晴さんの体を見る度に違和感は感じてましたけど、正体はそれだったんですね」
「プールの時にはせめて体を引き締めたいと思って努力した」
「誰の為に?」
「自分の為に決まってるだろ」
みっともない肉体など晒せるかと口を尖らせれば、美月は不服気に頬を膨らませた。
「そこは、私の為って言ってくれた方が女の子は喜びますよ」
「そうか。ならお前の為だ」
「いや、後出しで言われても何も嬉しくないんですけど」
美月は呆れた風にため息を吐く。
「そういう人ですよね貴方って。ラブコメ作家のくせに現実の女の子……ましてや妻の喜ぶ台詞を全然言わない」
「悪かったな淡泊で」
叱られてしまった。
そして、その後に美月はくすっと笑うと、
「でもいいですよ。貴方が言葉で伝えるのが下手というのは知ってますし、その代わりに行動で私に好きだと証明してくれるので」
「――――」
「こうして迎えに来てくれることも証明の一つです」
美月はきゅっ、と少し晴の手を強く握った。
その手を晴もきゅっと握り返せば、
「なら、家に帰ったらたっぷり証明しないとだな」
「……ペース考えましょう、って前に約束したじゃないですか」
ニヤリと口角を上げれば、美月の顔がたまらず赤くなる。
「まだ何も言ってないけど、あれあれ、美月ちゃんは俺の言葉にナニを想像したのかな?」
「べ、べつに至って厭らしいことは想像してませんけどっ」
「その反応がもう答えなんだよなぁ」
耳まで赤く染め上げた美月に苦笑しながら、晴は家路に着く。
とりあえず、家に帰ったら美月のご所望通り行動で愛を証明しようと思ったのは、愛情よりも悪戯心が勝ったからである。
―― Fin ――
【あとがき】
今回のあとがきは少し長いです。というのも、読者さまにお知らせしないといけない事が山ほどあるからです。安心して。全て吉報だから。悲報なのは作者だけだから。
まず、その1! あらすじなんかで既に目に触れた方はいると思いますが、なんと本作の【累計PVが10万】を突破しました! イエーイ!! パチパチ‼
その2! カクヨム単独、【総合PV5.5000】を突破!
その3! 応援数が【1000】を突破したよ!
お次の4! 本作のフォロワー数が500人を突破!
以上です。いやぁ、吉報がてんこ盛りって感じですね。本当に全て嬉しい限りなんですけど、作者としてはやはり【累計PV10万】を突破したことですかね。
もうね、この為だけに今週死ぬ気で頑張った。おかげでストックが0です。そして今週全然執筆できる時間が取れなかったので土曜日分の原稿がありません!
そうです。ピンチです。よくピンチはチャンスとか言うけど、ないない。ただのピンチだから。おかげで素直に10万突破喜べなくなっちゃったから。
まあ、今からたくさん書いていつも通りの更新頻度保っていくつもりです。
ここまでこれたのも、本当にこれまで支えて、付いて来てくれた読者さまたちのおかげです。いつも応援コメントをくださる方や応援♡をくださっている読者さまたち。
これまで本当に支えてくれてありがとうございます。
なんか今回で終わりみたいな文になってますが、全然そんなことないですからね。
ぶっちゃけるとあと200話くらい確定してるから。また原稿インフィニティだから。ということで、今日も執筆してきます。
1日頑張って行こー!!
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