第84.5話 『 ダイエットしないとっ 』
それは遡ること前日の夜。
「ふぅ。そろそろお風呂に入らないと」
試験範囲の予習も終わってお風呂に入ろうと、上着を脱いだ美月。
「――――」
けれど、上着を脱ごうとしていた手は直前でぴたりと止まった。
硬直した美月。その彼女の視線は、一台の体重計に注がれていた。
「そういえば最近測ってなかったな」
異様な気配を放つ体重計がどうにも気になってしまい、美月はきょろきょろと周囲を見た。
「……大丈夫。晴さんが来る気配はない」」
しっかりと旦那の気配を感知して、美月はひとまず安堵する。
再び、意識は体重計へと注がれた。
「(いつも運動とかストレッチしてるから体重はあまり変わってないはず)」
ぽちぽち、と体重計を準備最中、美月は胸中でそう呟く――まるで言い訳のように聞こえるのは、きっと気のせいだろう――。
三十秒ほど経って計測準備が整うと、美月はもう一度晴が来ないか念入りにチェックした。
「……よし、いこう」
ごくりと生唾を飲み込んで、体重計に足を乗せた。
いざ乙女の領域へ――。
覚悟を胸に目を瞑っていると、ピピッ、と電子音が鳴り響いた。
うっすらと目を開けていき、美月は眼下に表示された自分の体重と直面すると、
「――うえ⁉」
目を剥いた。
嘘だ、と目を擦ってもう一度数字を見る。
「うそうそ⁉ なにこの数字⁉」
機械が壊れたと思ってもう一度測っても、数字は変わらなかった。
眼下。表記された数字は、美月が今まで見た事もない数字を叩き出していた。
つまりだ、美月は太ったのだ。
「そんなあっ⁉ たしかに最近は体重計に乗ってなかったけど……でも太った感覚なんてなかったのに⁉ いったい何が原因なの⁉」
頭を押さえて戦慄する美月は、この数字を出してしまった要因を必死に辿る。
まず、一日三食は変わらない。
しっかり朝食をとって、お昼もしっかりお弁当を食べている。友達と休み時間に間食を取って、晩御飯は晴が美味しく食べる様を見るから自分も箸が進んでおかわり――
「いや太る原因ありすぎ⁉」
すぐにこの脂肪の元凶を見つけて、美月は発狂した。
美月は晴との生活を初めてから、ご飯を食べる量が少しだけ増えたのだ。
いつも美味しい美味しいと食べてくれる晴を見ると、自分の食欲も不思議と湧いてしまって、ついおかわりをしてしまう。
どうやら、それが原因だったらしい。まぁ、間食も原因の一つだが。
それでも、まだ現実を受け止めきれない美月はいやいやと首を横に振る。
「でもでも、私ちゃんと運動はしてるし、ストレッチだってやってるし、代謝はいいはずだし、そんなすぐには太らないはずっ」
この数字は、お腹だけではないはずだ。例えば、最近また大きくなった胸とか。
「くっ。胸なんて大きくてもいいことないのにっ……なんでまた大きくなるのっ」
美月の意思に関係なく、この胸は勝手に成長していく。おかげで下着を頻繁に買い替えなければならないし、クラスの男子からの視線もかなり不快だった。
でも悪いばかりでもなかった。
「……晴さん。おっぱいは大きいほうが好きだからなぁ」
すでに二度、美月と晴は結ばれている。その度に晴は胸を揉んできて「お前の胸は柔らかくて気持ちいい」と喜ぶから胸が大きくて不便なことを全否定できなかった。
晴は胸の大きさなんて気にしないと言うが、美月としては晴が喜んでくれるなら大きくて良かったと思っている。甘えてくる晴は可愛いので。
だがしかし、この体の主である美月の養分を糧に大きくなる胸のせいで体重が増えている事実は変わらない。
「……来月はプールがある」
水着も新調しに行かなければならないし、何よりもこのお腹を晴に見せたくない。「お前……」と幻滅されるのを想像すると、卒倒しかけた。
それに、これからは晴と愛し合う夜だってある。
となれば、乙女としては早急に対処しなければならない。
「ダイエットしないとっ」
旦那がいつ求めてきてもいいようなナイスバディを取り戻すべく、美月の奮闘は始まった。
その裏で旦那も努力しているという事は、美月は知るはずもなく――。
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