第81話 『 この人神かな⁉ 』


「ほーん。つまりお前は、〝陰キャ男子に手を差し伸べた結果、天使みたいな存在になった〟訳だ」

「なんでちょっとラノベのタイトル風に言うんですか」


 カレーを食べながら、晴は美月から今日の出来事を聞いていた。


「そのタイトルおもしろそうだな。今度プロット作ってみるか」

「え、ホントに書く気ですか?」

「俺はタイトルがあれば物語作れるからな」

「才能マン」


 ぱちぱちと目を瞬かせながら美月が驚いている。

 大袈裟だ、と一蹴して晴は言った。


「人に寄りけりだぞ。タイトルから作品を構成する人もいれば、逆に構成からタイトルを創る人もいる。作り方なんて十人十色だ」

「じゃあ晴さんは前者なんですね」

「いや。俺はどこからでも創れる。ま、やっぱタイトルからストーリー創る方がいいかな。楽だし」


 やっぱり才能マン、と美月が感服したように呟く。


「私も晴さんみたいな才能が欲しいです」

「お前だって十分才能に溢れてるだろ。少なくとも、俺にこんな上手いメシは作れない」

「ふふ。ならもっと味わって食べてください」

「言われなくとも味わってる」


 もぐもぐと噛みしめながら食べる様を、美月はご満悦げに見ていた。


「(そういえば慎は俺とは逆か)」


 咀嚼中、慎も晴のこの能力を羨ましがっていた事を思い出した。

 ぽんぽん作品創りやがって、と以前慎に嫉まれたような気もする。

 美月は「でも」と前置きすると、


「私の料理の腕はまだしも、晴さんのそれは唯一無二な気がしますよ」

「どうだろうか。これは才能というより癖みたいなもんだと思うぞ。ほっといたら勝手にタイトルが生み出されるし、そのストーリーも自動で綴られる」

「……それは、頭を酷使しそうですね」


 慣れだ慣れ、と言って、晴は頬を強張らせる美月の顔を元に戻させる。

 それから美月は何かを思い出したように「あ」と声を上げた。


「晴さんはラブコメ以外も書いてますよね?」

「まあな」


 美月の言う通り、たまにネット小説サイトにラブコメ以外も更新している。PⅤはぼちぼちだが。


「それもタイトルさえあれば作れるんですか?」

「タイトルと設定があれば何でも作れる」

「化け物ですね」


 才能を通り越して怪物だと美月が頬を引き攣らせる。


「ラブコメと戦闘ものって全然作りが違うはずですけど、どうして書けるんですか?」

「他の作品を見まくる。インプットしたものを、自分の形でアウトプットするだけだ」

「簡単に言いますけど、それ凄く難しいですよね」

「勉強とか多方面では無理だけど小説ならできる」

「執筆バカ」

「自覚してる」


 ラブコメならラブコメの作品を。

 戦闘ものなら戦闘ものの作品を。


 そうやって、先達から知識を学んで自分なりの作品を創る。

 技術とは小さな一歩の積み重ねだ。

 一つが成熟すれば、それを伴って次の実を成長させていく。成熟した実が多く在れば在るほど、武器になるし自由に物語を創れるようになる。


「今度、戦闘描写アリのラブコメでも書くかな」

「また晴さんから作品が生まれた」

「タイトルは【破滅に向かう機械人形マシンドール】……いや【終末戦線の戦闘人形ワルキューレ】の方が良いかな」

「この人神かな⁉」


 なんでそんなぱっと作品が創れるんですか⁉ と美月が目を白黒させていた。

 そんな美月に晴はいつも通り淡泊に返す。


「癖と慣れ」

「はいはい。執筆病なのはもう分かりましたから……ほら、ご飯食べる手が止まってますよ。頭より手を動かしてください」

「ん」


 子どもを躾ける親のように促してくる美月に、晴はこくりと頷いてカレーをまた食べる。


「ご飯食べてる時に小説創るの禁止」

「俺の思考を読むな」

「口数が減りましたからね。絶対に頭でプロット作ってると思いましたよ」


 鋭い指摘に晴は口を尖らせる。

 美月もすっかり自分の妻なんだと思わず実感して、そして妙な感慨深さを覚えた。

 そんな妻の言う通り、仕方なく頭で小説を作るのを中断して、もぐもぐとカレーを食べ進める。


「忘れないうちにノートに書き留めて置かないとな」


 と呟けば、美月が「あー」と反応した。


「そういえば、晴さんがリビングでよくノートに何かを書いているのを目にします」

「あれに書き残してる。じゃないと、せっかく浮かんだ作品忘れるから」


 アウトプットの量が多すぎて、情報を留めきれないのだ。なので、晴は思い浮かんだタイトルとその設定をノートに纏めている。スマホにも何十個もタイトルがあった。


「タイトルさえ見れば設定は思い出すからな。設定はあまり書き残さない」

「本当に貴方は小説特化人間ですね」


 苦笑する美月に、晴もその通りだと苦笑い。


「今度見てみたいです。晴さんの、まだ書いてないお話」

「ならご飯食べ終わったら見せてやる」

「いいんですか?」

「タイトルと設定だけだしな。原稿は困るが、仕事じゃなくプライベート用のなら問題ない」


 躊躇うことなく許可すれば、美月は「やった」と嬉しそうにはにかむ。

 そんなに喜ぶほどか、と思ってしまうものの、妻の笑みを見ればそんな疑問もどうでもよくなってしまう。

 就寝時間までの予定が決まれば、晴は美月との心地の良い食事を楽しむのだった。

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